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世界各国をかけ巡り、8カ国語で落語を披露している落語家の三遊亭竜楽。2008年から海外での口演をスタートさせ、今では日本語を含めた英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、中国語を使って、世界に笑いを届けている。日本の伝統文化である落語が世界で受け入れられたのは、なぜなのか?

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(GYAO! トークバラエティ「ぶるぺん」出演 落語家の三遊亭竜楽)


三遊亭竜楽の外国語落語(8か国語メドレー)>>


■海外行きの原動力は"芸人の性"

「海外での初口演はイタリアだったんですが、渡航費も含めてすべてボランティアだったんです。予算の都合で字幕もお願いできなかったので、もうイタリア語で落語をやってやろうじゃないかと。すると、現地でドカンとうけたんです。すっかり調子に乗りましたね(笑)。イタリアは世界中で一番よく笑う国民性ですから盛り上がりましたね。『ブラボー!』の連発でせりふが聞こえなくなる時もありました(笑)。あえて淡々とやって笑いが起こるのを抑えたりもします」

世界の国々での落語への反応の違い>>


「海外での口演を始めたばかりのとき、一番の壁は渡航費の資金繰りだと思っていました。ところが各国回ってみると、落語を広める一番の壁になるのは、経済大国日本の入場料が世界一高いことだと気づきました。世界トップクラスのエンターテインメントが集まるニューヨークに行くと、値段の高い舞台はたくさんありますが、その一方で無料で楽しめる催しも多いんです」

「海外での口演は日本のような入場料を設定できないので、私は儲(もう)かりません。それでも海外に出向きたいのは、"芸人の性"としか言いようがありません。多少の苦労があっても、笑いがたくさん起こる場所へ行きたいという気持ちがわくんです。日本人は世界で一番つまらない人たちと思われているので、『日本人が1人でやって来て俺たちを笑わせる? いいジョークだね』なんて言われたりもします。そういう人たちを爆笑させる快感は何ものにも替えがたいですね。実は、日本人は世界で一番笑わない民族なんです。理由は日本が世界一平和だからです。日本を一歩出れば、笑顔と笑い声で相手の警戒心を和らげることは身を守るために不可欠な手段です。海外に出ると笑顔がない人は警戒されますが、日本人はむやみに笑う人を警戒します。笑顔に対する意識の違いですね。」

海外で日本人がつまらないと思われる理由>>


■キザなパリジャンも大熱狂の渦に

「これまでで特に印象的だった場所は、パリです。初めてのフランス語での口演で、琴と鼓の演奏者との共演が出演の条件でした。舞台に上がろうとしたら『ヨーッ、ポン、ポン、ポン、ポン!』と、最初からとてつもない調子の出囃子(でばやし)です。知ったかぶりに腐った豆腐を食べさせる『ちりとてちん』を演じたのですが、ひと口食べるたびに、すかさず『ポーン!』と鼓が入る。やりにくいのなんの(笑)。最後の腐った豆腐を一気に食べる場面では、琴の女性が髪の毛を振り乱しながら演奏し、それに鼓の乱れ打ちが加わって、舞台はハチャメチャ......。ところが、会場が異様な熱気に包まれ、キザできどっているフランス人たちがわれを忘れて興奮して、『ラクゴ! ラクゴ!』とコールしながらものすごいスタンディングオベーションが起こったのです。パリジャンに強烈な印象を刻みつけたわけですが、はっきり言って落語ではなかったです(笑)」

外国語を覚える時に役立つ言語ごとの特徴>>


「海外の言葉は演目で使う言葉だけを集中して覚えているので、英語以外は日常会話レベルまでも話せるわけではありません。少しずつボキャブラリーを増やして、もっとお噺(はなし)の中に現地の言葉を取り入れたいんですが、『日本語の響きが美しい』と日本語混じりでやってほしいとお願いされることも多いです。フランスでは子どもが『ち・り・と・て・ち・ん』の発音をまねしながら落語を楽しんでくれました。各国出かけると、日本文化が世界中で興味を持たれていることを目の当たりにします。ドイツで協力してくれた日本文化の研究者は、専門が『上方漫才』で、漫才コンビ・横山やすし西川きよしや、夢路いとし喜味こいしに詳しい方もいたくらいです」

■落語は"しゃべる芸"ではない!?

「落語は"しゃべる芸"だと思っていましたが、海外で口演を始めてから考え方が変わりました。言葉は人間のコミュニケーションの30パーセントと言われます。表情・しぐさ・視線の方がよほど多くを伝えられるんです。私の落語が海外で受け入れられるのは、つたない外国語表現に多くを割かず、視覚的な表現を主体にして、物語を進めているからだと思います。落語家は扇子と手ぬぐいを使い、1人で首を左右に振りながら複数の人物を演じますが、登場人物の顔、体形、服装は、お客様ひとりひとりが頭の中で描き出します。その自在な想像が観客にとって何よりの楽しみなんですね。日本での高座においても視覚的な表現を意識するようになりました。」

日本と海外でのジェスチャーの違い>>


「落語は想像性を育む芸能です。今、世界で起こっている戦いや暴力の原因は、相手に対する想像力の欠如なんですね。想像しなくても簡単に楽しめるエンターテインメントが増えてきているので、相手の立場でものが考えられない。進歩発展の結果ではありますが、怖いことです。落語は演者の語りに観客の想像力が加わって、物語を躍動させます。俳句ではたった17文字の限られた表現で、解釈の多くを読む人の判断にゆだねています。日本文化の根底には、他者を思い尊重する価値観があるんです」

フランス人の間違った落語への反応が......>>


その他の出演番組>>

・芸歴31年の落語家が外国語落語を始めた訳
・海外で研究されている日本のお笑い文化
・国の気温によって発音に差が生まれる?
・日本が世界一高い意外なものとは?
・中国人にプレゼントを送る時の注意点


「フィレンツェ(イタリア)の文化協会の方が、『竜楽さんは客席と舞台の間にあった薄いベールを全部取り払ってくれた』と言ってくれました。日本的なものを意識してメディアに発信していくことは、きっと世界を癒やす力になっていくんじゃないかと思います。私の独演会で、自身の持つ豊かな想像性を発見してもらえたらうれしいですね。それが己を磨くことになり、より魅力的な輝きを放つ人になっていくと思います。そういうアナログなもの、想像力を磨いてくれるものを積極的にとり入れようとする人が、メディアの新たな可能性を開くんじゃないかと思います」

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(GYAO! トークバラエティ「ぶるぺん」出演 落語家の三遊亭竜楽)


◆三遊亭竜楽 プロフィール
1958年9月12日、群馬県生まれ。1985年に三遊亭円楽に入門。1992年には真打ちに昇進する。独演会などを重ね、2008年からは「フィレンツェ・フェスティバルジャポネーゼ」でのイタリア語落語口演を皮切りに、世界各国で現地語を用いた口演を始めた。今では日本語を含めて8カ国の言葉で口演をおこなっている。
<座右の銘>「日本の笑いが世界を駆ける」

(取材・文/岩木理恵@HEW
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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