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 島本理生の恋愛小説を、松本潤×有村架純で映画化した『ナラタージュ』(10月7日公開)。メガホンをとったのは、原作と出会ったときから映画化を熱望し、構想12年の歳月を費やし実現させた行定勲監督だ。「このタイミングだからこそ実現できた、運命的な組み合わせ」と絶賛したキャストを含め、本作に対する熱い思いを名匠が語った。

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行定勲監督、『ナラタージュ』(10月7日公開)松本潤×有村架純で映画化


【予告編映像】「ナラタージュ」>>


【特集】キャスト紹介も!「ナラタージュ」>>

■松本潤、有村架純、坂口健太郎という理想的なキャスティング

――島本理生さんの原作を映画化する際「覚悟が必要」と語られていましたが、どんな覚悟を持って臨まれたのでしょうか?

行定: ラブストーリーは観た人が共感できることが重要で、時代に合わせてフィットするものを作るのが普通だと思うんです。今ならときめきを描く映画が支持されるんでしょうが、一方で、ときめきとは対極にある"息苦しくてそこから逸脱できない自分"を描くこともやらなくてはいけないと思ったんです。そういった部分の覚悟ですかね。

――構想から12年の歳月が流れたとお聞きしましたが。

行定: キャストが決まりませんでした。決定打がないというか、気持ちよくスパッと決まらない時間が長かった。映画にとって一番恐ろしいのは、しっくり来ないのにやらなくてはならず、無理やりやってしまうことなんです。長く時間は掛かりましたが、この映画では松本くん、有村さん、坂口くんという理想的なキャストがそろってくれた。僕の監督としての力量だけではどうにもならないことが、俳優たちの力で成し遂げられました。

――長らく難航していたキャスティングが、ようやく納得できるものになったということですか?

行定: 恋愛劇ってキャストが誰かでまったく違う作品になってしまうんです。とても慎重になりました。最初に松本くん、有村さん、坂口くんとそれぞれ会話をさせてもらったとき、映画に対する身構え方がみなさん的確だったので、「この3人で撮りたい」と確信しました。それでも、こちらが設定した高いハードルをしっかり乗り越えてくれるかは、演じてみるまでわからないので僕自身も苦しかったです。

■行定監督が、「この3人で撮りたい」と思った瞬間

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松本潤×有村架純で映画化『ナラタージュ』(10月7日公開)


――3人とは、どんな会話をしたのでしょうか。

行定: 有村さんは「聞きたいことがある」という割には、僕の話を聞くことに徹するんです。その上で、「自分はこんな恋愛をしてきたわけじゃないので、できるかわからないけれど、この役をやりたいです」って言ったんです。この時点で彼女は"女優"だなと感じました。

 松本くんは「僕が演じる葉山という男は自分で作れるからいいのだけれど、彼女(有村演じる泉)からどういう風に見られている男なのかを知りたい」って言うんです。普通、俳優としては自分がどういう感情でいるかを知りたいと思うものなんです。僕は輪郭がぼけていると表現したら、そのことに食いついてきました。それで僕は、彼と一緒に作品を作っていきたいと感じましたね。

 坂口くんは、非常に自分自身の解釈を明確に見つけてくれるので「思い切り自分でやりたいようにやってみて」というところから始まっています。彼が演じた小野という男は、ある種当て馬的な役柄で、結局は「いいやつ」ということで終わることが多いタイプの役なのですが、彼はそれを覆す怪演をしたと思います。それは「こうすればできる」とか「こうやってみたらいい」と言ってできるものじゃないんです。

■人に言いたくないような、心に秘めた感情を描きたい

――行定監督が待ち望んでいたキャストで挑んだ作品ですが、出来上がったものには手ごたえを感じているのではないですか?

行定: 作っている側なので、自画自賛はありません(笑)、でも、完成したものは自信があります。でも一方で、題材のテーマとしてきちんと届くかなという不安もあって。人生や恋愛って答えがないじゃないですか。しかもどうでもいい話でしょ?

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松本潤×有村架純で映画化『ナラタージュ』(10月7日公開)


――どうでもいいとは?

行定: 世の中で起きていることや世界規模で考えたら、他人の恋愛なんてどうでもいいじゃないですか。もっとすごいことや大事にしなければいけないことはたくさんある。でも僕は、そういったどうでもいいような話が好きなんです。なぜなら、どうでもいいって取り掛かるのですが、撮影している僕らがどうでもよくなくなってくるんです。同じように見ている人も、最初はひとごとなのに、2時間のあいだにだんだんと自分のことのように見入ってしまうのが、映画のマジックなのかなと思うんです。僕はとんでもなく運命的な二人を描く恋愛映画なんて全く興味がなく、人に言いたくないような、心に秘めた感情を描きたいんです。

――その意味では、前作の『ジムノペディに乱れる』と『ナラタージュ』の対比も面白いですね。

行定: 『ナラタージュ』の方が、より湿度が高い。『ジムノペディに乱れる』は裸があるので、湿度が高く見えますが、どちらかというと乾いた感じなんです。『ナラタージュ』の方が、より抑圧された感情が渦巻いているので、逆にエロティックなんですよね。

■有村架純の女優魂

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行定勲監督、『ナラタージュ』(10月7日公開)松本潤×有村架純で映画化


――有村さんという女優さんの魅力は?

行定: 泉という役は有村架純がやるからいい。これがはすっぱなところがあったり、スキャンダルがあっても「なにが悪いの?」という女優さんがやったら嘘くさくなってしまう。彼女はとても清純に見える。それってとても女優らしい。でも役柄はそうじゃない。そこをしっかりと演じ切ってくれました。女優魂を感じました。

――泉というキャスティングも難航したのでしょうか?

行定: この役は相当慎重でしたね。清純なイメージの人がやるからこそ意味があるので、十数年間ずっといろいろな人に話をしてきたのですが、なかなかわかってもらえない。「まだラブシーンをするのは早い」とか「うちの子にはラブシーンはやらせられない」とかね。でも30歳前後になって、清純派からの脱却とかいってラブシーンをやっても、それは驚きがない。でも有村さんは、そこに対して本気で女優として向き合ってくれているなと感じたんです。

――「ひよっこ」終了後、本作が公開というのも、有村さんの振れ幅に驚きの声が上がるかもしれませんね。

行定: 「ひよっこ」を見ている人は、より驚くかもしれませんね。真逆なキャラクターとも言えますからね。でも少し心配な部分もあるんです。「わたしの好きなみね子じゃない!」って言われちゃうとね(笑)。「そことは比べないで」って思いです。有村さんが演じた泉という女性の生々しさは出色だと思います。有村さんだけではなく松本くんや坂口くんなど、役者たちが本当に頑張ったと思うので、応援してほしいですね。

――座右の銘をお聞かせください。

行定: 座右の銘という言葉ではないですが、ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩の一節に「始まりはすべて続きにすぎない」というのがあります。これは、偶然に翻弄(ほんろう)された二人が出会うのですが、実は昔からすれ違っていたのに気づかなかっただけ。そこで出会ったように思えるけれど、ずっと続いていたんだということなのですが、僕は映画を作っていると、この言葉の意味をすごく納得することがあるんです。この映画もそうです。ずっと前から構想があったのだけれど実現しなかったことが、3人との出会いで突然動き出す。まさに「始まりはすべて続きにすぎない」に通じますよね。

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(取材・文・写真:磯部正和)
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行定勲(ゆきさだ・いさお)
1968年8月3日生まれ、熊本県出身。2000年『ひまわり』が釜山国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し注目を集めると、2001年公開の『GO』で日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞。その後も、2004年公開の『世界の中心で、愛をさけぶ』は興収85億円という大ヒットを記録するなど、日本を代表する映画監督として活躍中。座右の銘は「始まりはすべて続きにすぎない」。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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