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映画『グラン・ブルー』を彷彿(ほうふつ)とさせる番組だ。
映画と異なるのは、人類史上はじめて素潜りで100メートルを超える記録をつくったジャック・マイヨールが主役ではなく、フリーダイバー・木下紗佑里(きのしたさゆり・28歳)の前人未到の記録に挑戦する姿を追っている点。10月8日(日)放送の『情熱大陸』は、フリーダイビング世界大会連覇なるか否かのドキュメンタリーだ。

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イメージ画像(写真:アフロ)


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■チャーミングなオープニング

硬派なドキュメンタリーだが、番組のオープニングはチャーミングだ。
真っ青な海・サンゴの山・南の魚たちの映像に、「その日、沖縄の海に潜った人たちは、あり得ない光景に目を見張った」というコメントで始まった。
「アニメの世界だよ」「魚と一体化していました」「すごい奇麗でした。人魚です」と、その場に居合わせた人々の絶賛の声が続く。褒めていたのは、ボンベもなしに海中に遊ぶ女性。それが今回の主人公・木下紗佑里だった。

彼女は一呼吸で5分近くも海中に留まることができる。
まだなじみの薄いスポーツ・フリーダイビングを広めるための撮影会だった。
「海にギューッとされて、自分が海になって、溶けていく感じ」インタビューは、実に自然体だ。

■木下紗佑里のプロフィール

長崎県出身の彼女は、父に水泳を習い、高校時代は競泳の選手だった。大学卒業後はスイミングスクールのインストラクターになったが、2013年にフリーダイビングと出会う。
そして世界大会「キプロス2015年」で優勝。キャリアわずか2年でいきなりトップに躍り出たために、ダイバー仲間からモンスターと呼ばれたくらいだった。
さらに去年4月の大会「Vertical Blueバハマ2016」では、足ひれなしの種目で、72 mの世界記録もマークした。それまでロシアの女性選手が持っていた、不滅と言われた記録を2m更新した。潜水時間は3分14秒。誰もが認める世界チャンピオンになった瞬間だった。

フリーダイビングでは、水深30mを過ぎると水圧で肺が縮み、自然に沈むフリーフォールが起きる。
ただし訓練を受けなければ、鼓膜を傷つけ、肺もつぶれてしまう。ところが鍛えることで、70mあたりで血液が脳・心臓・肺などに集中するようになる。ブラッドシフトと呼ばれる生命維持の能力だ。
これはイルカと変わらないものだという。そういえば、映画『グラン・ブルー』の主人公・ジャック・マイヨールは、10歳の時に日本の佐賀県唐津市七ツ釜ではじめてイルカと出会ったことが人生の原点になっていた。天才はイルカと関係が深いようだ。

■木下の強さの秘訣(ひけつ)

今年の夏、彼女は前人未到の世界大会連覇を目指していた。
「3種目優勝して、MVPをとりたい」「自分が一年間思い描いた瞬間がついに来るんだ。ワクワクしてしょうがない」と抱負を語っていた。どうやら彼女の中では、潜ることの気持ちよさと世界大会連覇への強い意志が両立しているようだ。

彼女の日常を追うカメラは、強さの秘訣(ひけつ)も映像におさめていた。
人気のない浜辺で心身をリラックスさせ、呼吸に意識を集中させる木下。続いて内臓のストレッチ。海に潜るためにヨガを学んだ彼女は、独自の呼吸法を編み出していた。おなかを極端に引っ込め、続いて臍(へそ)の左右10cmほどだけ柱のようにして前に突き出して見せた。本来そんな動きは思う通りにできないはずだが、彼女は自由自在に体を操ってしまう。
一流のバレエダンサーは、体の全ての関節を思うままに曲げられるというが、木下も肺まわりの筋肉や内臓を、意のままにコントロールできるようだ。
「海に潜って行くと肺が縮んでいき、横隔膜が自動的に上に上がってくる。それを潜る前に自分で再現して、ストレッチする」という。肺がつぶれないよう横隔膜で守る訓練なのだ。
彼女にはもう一つ武器がある。皮下脂肪だ。海に適した皮膚をしていて、表面全体に2~3mmの良質な脂肪がついている。つまり保温性が高い。
これらが世界チャンピオンを支える武器になっている。

■木下の挑戦

大会は3種目。「平泳ぎ(フィンなし)」「フィンあり」「ロープを引っ張る」。
ところが木下はロープ種目を苦手にしていた。理由は女子選手の中で腕の筋肉量が人一倍多く、腕に頼り過ぎると酸素の消費量が増えてしまうからだ。
課題は酸素の使い方。
ロープをたぐり、いったん水深30mまで潜る。この時点で肺の酸素がどの程度残っているのかを感覚的に確かめる練習をしていた。これまた不随筋の時と同じ、常人には全くまねのできないことだ。
その上でさらに深く潜る。この練習をひたすら繰り返す。

実は彼女は1年ほど前、恐怖に駆られ全く潜れなくなるという経験をしていた。
「精神的にちょっと揺れ動いた時期。ブラックアウトを初めてした」
ブラックアウトとは、海面に戻る直前に酸欠で意識を失うこと。いわゆる失神だ。数分で回復するが、精神的な後遺症が残ることが多い。
「ブラックアウトした後に、10mも20mも潜れなくなって。体が怖がってしまった。それをどう受け止めたらよいか、感情を整理する期間は大変だった」と振り返る。
2カ月もの間、自分と向き合った。辿(たど)り着いた結論は、「恐怖心を味方につけること。恐れを含めて全てを受け入れれば、強くなれる」そう考えたそうだ。

■番組のクライマックス

今年の大会はホンジュラスの「ロアタン2017」。世界26カ国、92人が7日間かけて3種目を競い合う。
競技では、めざす深さを自己申告するが、今回木下は苦手のロープで自己記録83mに挑戦することにしていた。
ところが、現地に入って風邪をひいてしまった。一抹の不安がよぎる。それでも大会は待ってくれない。
初日は苦手のロープから始まった。彼女からいつもの笑顔は消えた。申告したのは85m。自己記録を2m上回る数字だ。
トライは1回限り。現地の練習でも80mは超えられないままのぶっつけ本番だった。

それでも本番直前、木下は「勝つために潜るのではない。どこまで楽しめるか。可能性を広げたいから潜る」といっていた。
7日間の闘いの最後は、逆転優勝をかけた挑戦になった。連続する厳しい闘い。果たして木下は前人未到の連覇を達成できたのか。
映画『グラン・ブルー』は意外な結末となったが、事実を追いかけるドキュメンタリーはどうだったのか。ぜひご自分の目で歴史的瞬間を目撃していただきたい。

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文責:次世代メディア研究所

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