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36年連続で「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」首位という記録を達成した老舗旅館がある。石川県能登地方・和倉温泉郷にある「加賀屋」だ。
ところが去年、36年続いたランキング1位の座を、他の旅館に奪われてしまった。腸炎ビブリオの食中毒が発生し、3日間の営業停止処分となったのが致命的だった。
旅館"日本一奪還"をめざし奮闘する若女将のドキュメントから、"おもてなし"の意味を考えてみた。

サムネイル

イメージ画像 (写真:アフロ)


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■主人公は若女将

入り江の海はいつも穏やかだ。
それを一望して立つ大旅館「加賀屋」。能登半島和倉温泉の老舗だ。宿泊客は一日最大1000人。対応する客室係は120人。若女将・小田絵里香は、そのリーダーであり、超大型旅館の現場を切り盛りする責任者だ。

博多生まれで、お祭り好きのお転婆娘だった。米国の大学卒業後、夢だった大手航空会社でキャビンアテンダントとなった。ところが9年務める中で、今の夫・小田與之彦と出会った。有名旅館の御曹司とは知らなかったが、成り行きで老舗旅館の若女将におさまってしまった。
「笑顔で気働き」をモットーとして、代々の女将に受け継がれる"おもてなしの極意"を守り続けている。

■舞台は老舗旅館

「加賀屋」は大規模旅館だけに、施設はホテルを彷彿(ほうふつ)させる。
ところが要所要所には、和の趣をしつらえている。例えば巨大な加賀友禅。至る所には、九谷焼・輪島塗など貴重な伝統工芸品が配されている。料理も思い出に残る味覚が並ぶ。この時期は甘エビや寒ブリのお造り、そしてズワイガニ。しかし料理以上に、この旅館を長年日本一に押し上げてきた魅力は"おもてなし"だ。

若女将は言う。
「自然な振る舞いがおもてなし」
「例えば子供がころんだら、アララララと起しに行き、お客が誕生日ならおめでとうと手をたたく」

「加賀屋」には、おもてなしを支える設備も整っている。
例えば調理場から各フロアーに調理を運ぶ自動搬送システム。36年前から導入を始め、約5億円を投じていた。
「機械にできることは機械に任せ、人は気働きに勢力を注ぐ」が経営方針だ。

■おもてなしの前提

それでも、稼働率80%を超える驚異的な人気により、チェックインの時間はいつも大忙し。
取材カメラはチェックインで45分待たされた客を見つけた。若女将はすぐに謝罪した上、番頭にその後のケアを指示した。
「ミスは取り繕わず、正直に誠実に対処する」
「クレームは宝。次のおもてなしにいきるから」

若女将は積極的に客室をまわる。そこで35周年の結婚記念日で宿泊していることを知った彼女は、写真の手配を指示した。記念撮影のサプライズだ。
特別な日を「加賀屋」で過ごしたいと思う客は少なくない。そんな記念日の客に、ちょっとした贈り物を渡す。
「中身よりも、その心遣いを人は喜ぶ」
しかも若女将が付ける送り状には、自分の名前ではなく、大女将(義母)を立てて、その名を入れる。
実はこの大女将の時代に、従業員の子供専用の保育園が併設された。31年前のことである。
「ここのおかげで、皆おもてなしに集中できる」

■女将99%

若女将も二児の母。ただし母親と女将の両立はたやすくない。子供と接することができるのは、夜遅くと朝だけだ。
「産みっぱなしで、全然子育てしていない。こんな生活しているから」
「自分は母親1%、女将99%」

99%の女将は、客室係120人との関係を重視している。おもてなしの最前線に立つ人々だからだ。

トラブルが発生した。ある客室に出す料理が、本来ならお造り10種盛りだったが、6種盛りを出してしまった。客は気づかずに食べていたが、間髪を入れずに若女将自ら謝罪。今から10種盛りに取り換えるか、他のサービスでご容赦いただくか、客に選択してもらった。
そして返す刀で、ミスをした接客係へ。対応の結果を報告し、一言付け加えた。
「しっかりね。お互い、声をかけ合ってね」
若女将は相手によってしかり方を変えていた。
「本人、わざとやっているわけではない。何度もミスをしている子でもないのでね」

静かな宴会場があった。携えていた写真と会話の端々から、客室係が故人に備える御前(陰膳)を、急遽(きゅうきょ)余分にしつらえていた。お邪魔する若女将。
「寂しくなられましたねえ」
「海の方を見せてあげたり、山の方を見せてあげたり、一緒に過ごしてまいりました」
客とのやりとりの後、若女将はその客室係に「お疲れさま、素晴らしい陰膳対応!」と声をかけるのを忘れなかった。

若女将は客からのお礼の手紙を全てチェックしている。その上で、担当の客室係に「いつもありがとうございます」など一言コメントもつけている。
「正確にただお役に立つだけだったら、感動は生まれない」
「ノープレイ・ノーエラーってある。プレーしなければエラーもない」
「私たちは常にヒットを打ち続けなければいけないと思っています」

客室係一人一人と交換日記のようなファイルも始めた。全ファイルには、目標と結果が明記される。客室係120人の個性と事情を小田が把握し、おもてなしの向上をめざすがゆえの施策である。
実は若女将は、「なんで旅館なのか。別にホテルでも良いじゃないか」って思ったことがある。ところが若女将を続ける中で行きついた答えがこれだった。
「お客様のお声を頂く中で、人が加わるから、人がいるから、生まれる感動とか、生まれるクレームがあることが分かりました」
「喜怒哀楽が全て集約されているのが、宿の楽しさであり、宿命かな」

■日本一奪還は......

12月10日深夜11時50分。
若女将と何人かのスタッフが事務所に残っていた。実は日付が変わる瞬間に、2017年のランキングが発表される。
......果たして「加賀屋」の"日本一奪還"はなったのか。

"不易流行"という言葉がある。不変の伝統も、時代に即した変化も、根本は同じだという意味。若女将の"おもてなし"も、不易流行を旨としているという。
そんな彼女だからこそ、ランキングの結果が出た直後の一言は重い。
"おもてなし"の奥は深い!

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所

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