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待ってました! 坂元裕二作品!
演出は、水田伸生、音楽は、三宅一徳。黄金のトライアングルと呼ぶべき、スーパートリオ。『Woman』『はなちゃんのみそ汁』に次いで、新たな芸術作品が始まった。
主演は、10代最強の女優・広瀬すず。
共演者は、田中裕子・阿部サダヲ・小林聡美・瑛太・火野正平と、実力派で個性的な俳優がそろう。キャスティングには、1ミリも妥協がない。

サムネイル

Japanese actress and model Suzu Hirose speaks during a press conference on January 27, 2016, Tokyo, Japan. (写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


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■モザイクのような作品

映画を見ているようなカメラワーク。
持本舵(阿部サダヲ)が、病院の待合室で、診察を待っている。別の患者の世間話で始まるのだが、なんてことないせりふなのに、なぜか集中して見ている。開始2秒で、『anone』の世界に惹(ひ)きこまれている。
これぞ坂本作品の世界。

記憶に新しい、去年の『カルテット』もそうだった。スーッと入ってきて、いつの間にか逆転している。作品が自分の中に入ってくるのではなく、自分がその世界へ吸い込まれていくようだ。
大きなパズルを組み立てていくように、静かにストーリーが出来上がっていく。
色の合いそうなパーツを組み合わせて、切り取ったストーリーの切れ端が、いくつかできる。そして、その出来上がったグループは、それぞれ全然違う色なのに、あるところで急につながって"大きな絵"が広がる。

■奥行きを与える各パーツ

持本舵のカレー店は、舵の余命宣告を受け、お店最後の日の夜を迎えていた。そこへ現れた謎の女・青羽るい子(小林聡美)と舵には、共通点があった。それは"死"だった。
一方、辻沢ハリカ(広瀬すず)は、ネットカフェで偶然知り合った同居人と一緒に暮らしている。テレビで見ると、このシチュエーションは非現実的だが、実際には本当に住所不定のネットカフェで暮らす若者はいるのだ。
ハリカが8歳から12歳まで、祖母と暮らしていた森の中の家は、実は児童施設で、ハリカが自分を"ハズレ"と名乗る理由がそこにあった。
不登校や家庭の問題で、手に負えなくなった子供を裕福な親は、教育のためと言って施設に入れる。そして、そこで劣悪な環境での生活を強いられ、虐待されている子供たちがいる。中には、死亡してしまった実例すらある。そんな社会の裏の現実が、脳裏をよぎる。

ハリカの心のよりどころになっている、ネット上のチャット相手・"カノンさん"(清水尋也・しみずひろや)。闘病のため病院に入院しており、会うことはないがハリカの心に近い存在だ。
チャットは、現代の会話手段の中で、もっとも人工的な手段だが、このチャットをハリカとカノンさんの声でつぶやくことによって、単なるチャットの会話が、心の会話としてつながっている感じが、生々しくなる。

■クオリティの高い音楽

そして、なんとも言えない美しいサントラ。
三宅一徳が手がける音楽は、ジャンルも幅広く、時にたくさんの色を持ち、時に詩的な情景を奏でる。
大量のお札が入った袋を追いかけ、車や電車、スケボーでの争奪戦を繰り広げるスピード感あふれるシーンでは、効果音としてのリズムセクションと電子音で、躍動感ある演出を提供する。また森の中や景色に合わせ、オーケストラで風のような色を出し、ピアノソロのミニマムなメロディで静寂を語る。
民族音楽を熟知しているだろう音階の使い分け、作曲としての和音進行のバリエーションの豊かさが、ドラマに付随する単なる劇中音楽に留まらず、さらにクオリティの高い一つの作品として成立している。
このドラマのサントラが発売されるのは、いつだろうか。

セリフの一フレーズごとに、意味を持ち、それを奥深い解釈で噛(か)み砕いていく役者たちの丁寧な演技に、釘(くぎ)付けになってしまう。
林田亜乃音(田中裕子)が、自宅の床下から発見した、大量の1万円札は、一体誰が隠したのか。
ストーリーが明らかになるにつれて、受け止めなければならない事実が、まだまだ待ち構えているのだろう。

初回視聴率は、残念ながら9.2%と二桁に届かなかった。近年の坂本作品は、序盤で「気がめいる」「何が言いたいのか疑問」など受け入れられずに離れていく視聴者が一定数いる。ところが見続けた人は、深い感動に包まれ、高い満足感を示すケースが多い。いわば"先憂後楽"型のドラマになっている。
だから『カルテット』に続く、じっくり味わうと面白さが分かってくる作品になると確信する。初回を見逃した人、あるいは途中で脱落した人、ぜひそんな視点で見直していただきたい。

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コラムニスト:はたじゅんこ
監修:次世代メディア研究所

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