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2014年文化庁メディア芸術祭優秀賞に選ばれた山上たつひこ&いがらしみきおのコミックを実写映画化した『羊の木』(2月3日公開)。国家の極秘プロジェクトとして仮釈放された元殺人犯を受け入れた田舎町を舞台に、さまざまな人間模様が繰り広げられる本作のメガホンをとったのが、映画『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞を受賞した吉田大八監督だ。これまで幅広いジャンルの作品を手掛けてきた吉田監督は、さまざまなテーマが内在する原作を、どのように2時間の映画に仕上げたのだろうか......。

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吉田大八監督、『羊の木』(2月3日公開)


【予告編映像】映画『羊の木』>>


相関図やあらすじほか、映画『羊の木』特集(GYAO!)>>

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■原作の持つテーマ性が大きすぎて途方にくれた

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出演は錦戸亮、木村文乃ほか『羊の木』(2月3日公開)


――原作コミックを実写映画化するという話を聞いたとき、どのような印象を持ちましたか?

吉田: 年齢を重ねるにつれて、新しい映画を作る際は社会とのかかわりを強く意識するようになってきました。この話の企画を相談されたのは『桐島、部活やめるってよ』が公開されたすぐ後ぐらいだったのですが、原作を読む前にプロデューサーから設定を聞いた時点で、罪を犯した人の更生や地方の過疎化、移民のことなど、現代的な問題がたくさん盛り込まれていて「面白いな」と思ったのを覚えています。しかもSF的な印象も受けました。SFの良いところは、架空の前提を自由に設定して、わりとダイレクトに社会問題に切り込むことができる。そんなところも魅力でしたね。

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魚深市に帰郷した同級生役・木村文乃(『羊の木』2月3日公開)


――いろいろなテーマをどう整理し、どういった部分を意識されたのでしょうか?

吉田: 原作を読み終わったあと、しばらく途方にくれてしまいました。そこからなかなか立ち直れなくて(笑)。あまりにも自由奔放でパワフルな作品だったので、これを映画の尺に収めるのは無理なんじゃないかと......。脚本家の香川(まさひと)さんや、プロデューサーの井手(陽子)さんと、かなり議論を重ねました。試行錯誤の連続で、2年間ぐらいの時間を要してしまった。大きく動き出したのは、クランクインの半年ぐらい前ですかね。大きな問題や人間の極端な闇の部分ばかりに目がいってしまったのですが、ある日、ふと自分のなかで"友達"とか"友情"というキーワードがポッと浮かびあがってきたのです。そこから感情的に落とし込める糸口が見つかったような気がして、一気に加速していきました。

■「罪を忘れるほど人間は自由じゃないけれど、それに浸って生きていくほどタフでもない。」

――錦戸亮さん演じる月末一と、松田龍平さんふんする宮腰一郎の"友情"が核に?

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傷害致死(懲役1年6ヶ月)宅配業者・宮腰役の松田龍平(『羊の木』2月3日公開)


吉田: "友達"という言葉は日常的に使っているけれど、どこからどこまでが"友達"と呼べるのかというのは、人それぞれ違うし、無意識に線引きしていると思うのです。例えば、集合住宅に暮らしていても、あいさつを交わす間柄の人が立てる物音と、まったく知らない人が立てる音だとストレスは違う、ってよく言いますよね? そういう距離感を意識しながら、この作品を見ていくと、いろいろな部分で腑(ふ)に落ちるところがあったのです。

――もう一つ、過去と罪というテーマもりますが、あまり重々しく描いていないように感じられました。

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傷害致死(懲役8年)釣り船屋・杉山役の北村一輝(『羊の木』2月3日公開)


吉田: 素性の知れない男女、しかも全員元殺人犯がさびれた港町に集まるということで、すごく明るくポップなものにはならないのは想像できるのですが、あまりに重い部分を押し付ける演出は避けようと思っていました。人を殺した人だって、笑うときだってあるだろうし、おいしいものを食べたらおいしいと感じると思うのです。罪は罪として言葉としての重さはあると思うのですが、言葉で処理することと、実際目の前に存在する人と対峙(たいじ)することは分けて考えるのかなと。罪を忘れるほど人間は自由じゃないけれど、それに浸って生きていくほどタフでもない。そういったさじ加減は意識しました。

■吉田監督のキャスティングへのこだわり

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殺人(懲役7年)介護センター・太田役の優香(『羊の木』2月3日公開)


――錦戸さん、松田さんをはじめキャスティングはどのタイミングで?

吉田: 脚本が最終稿に入る前あたりですね。6~7割ぐらいのタイミングで、声をかけさせてもらってます。一緒に仕事をしたいと思うような人は、だいたい忙しいですからね。

――吉田監督の過去の作品を見ていると、橋本愛さんのような例(『桐島、部活やめるってよ』と『美しい星』に出演)もありますが、基本的に同じキャストを起用しないイメージがあります。

吉田: 「一人とは一度だけ」とかいうこだわりでは決してないです(笑)。ただ、一度仕事をご一緒すると、自分のなかで、その役のイメージが強くなってしまうのです。過去のイメージを払拭(ふっしょく)するぐらいのインパクトを持った役と俳優さんとのマッチングが思いつけば、何度でもご一緒したいと思っています。とは言いつつ、そもそも企画を選ぶ段階で、以前と似たようなテーマを選ばないので、結果的に新しい顔ぶれになっているという現状があります。

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殺人(懲役6年)清掃員・栗本役の市川実日子(『羊の木』2月3日公開)


――吉田監督と再度ご一緒したいという俳優さんの声をよく聞きます。

吉田: もちろん、僕もやりたいですし、今後もあると思います。これ以上世間を狭くしたくないですしね(笑)。

■キャラクターのイメージにはまりすぎている俳優は疑った方がいい

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殺人(懲役18年)クリーニング店・大野役の田中泯(『羊の木』2月3日公開)


――錦戸さんや松田さんをはじめ、個性的かつ魅せる俳優さんたちがそろいました。

吉田: 可能性を感じていない人には声をかけていないのですが、脚本のイメージにはまりすぎている人は、どこか疑った方がいいのです。15~20パーセントぐらい読めない部分を持っている俳優さんが撮影を重ねるなかで、大きく予想を超えていくというのが理想です。

――監督の予想を大きく超えるような演技をされた俳優さんはいますか?

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殺人(懲役7年)理髪店・福元役の水澤紳吾(『羊の木』2月3日公開)


吉田: みなさん期待以上の演技をしてくれましたが、なかでも「すごいな」と思ったのは、(福元宏喜役の)水澤紳吾さんですかね。カメラが回ってからの、彼の仕掛け方には「やられた」と思うことが多かったです。

――俳優さんには自由にやってもらうというのが吉田監督の演出方法ですか?

吉田: 監督というのは、自分のイメージに収まってもらっても物足りないと思ってしまうものなのです。だから、最初は俳優さんの持ってきたものを見せてもらうというスタンスでいます。

――錦戸さんと同様、木村文乃さん演じた文(あや)という役も、罪を犯していないという意味では、特殊な立ち位置ですね。

吉田: 文は、元殺人犯6名とはまた違った意味で、月末から見えない"過去"を背負っています。だから月末の不安に、文が加わることでさらに状況が加速していくんです。最後に月末と文がどんな顔を見せてくれるか、がこの物語の着地点になるだろうというふうに思っていました。

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吉田大八監督、『羊の木』(2月3日公開)


――エンドロールも印象的です。

吉田: 最後までちょっとでも楽しんでもらいたいと思っただけで......たいしたことではないです(笑)。思いとしてあるのは、映画って、いろいろなテーマがあるし入り口も違う。なのに、エンドロールになると、ほとんど同じになってしまう。そこになんとなく息苦しさを感じていたので、自分の映画でわざわざそれを選ぶ必要はないなという発想です。何度も言いますが、たいしたことはしていませんが、最後まで楽しんでいただけたらと思います。

――座右の銘をお聞かせください。

吉田: 最近よく思うのは、「良いことも悪いことも一緒」だということ。良いことのせいで悪いことが起こることもあるし、逆もあります。すべてがつながっていると考えるようになりました。

・・・
素性の知れないものたちを信じるか? 疑うか?
国家の極秘プロジェクトとして受け入れられた、6人の元受刑者。平穏な日常に割り込んできた"新住民"はすべて、元殺人犯だった。原作の設定とエッセンスを生かしつつ、完全オリジナルの結末を創造。リアルな他者と社会と向き合った、吉田大八ワールドの新展開で心揺さぶる衝撃と希望のヒューマン・サスペンスが完成。出演は、錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平ほか。映画『羊の木』は、2月3日(土)劇場公開。

相関図やあらすじほか、映画『羊の木』特集(GYAO!)>>

(取材・文・撮影:磯部正和)
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吉田 大八(よしだ・だいはち)
1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外の広告賞を受賞すると、2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。本作は、第60回カンヌ国際映画祭批評家週間部門に招待されるなど大きな話題になった。その後も『パーマネント野ばら』(10年)などを発表。『桐島、部活やめるってよ』(12年)で、第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞し、『紙の月』(14年)でも第38回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞するなど、日本を代表する映画監督として高い評価を受けている。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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