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初回から第2話にかけて、名セリフのオンパレードだった『anone』。第3話では一転して名セリフは抑制され、行間に登場人物の思いが込められるようになった。
亜乃音(田中裕子)の亡くなった夫が残した偽札が、ハリカ(広瀬すず)など登場人物たちの運命を想定外の方向に動かし始めた。その中で、それぞれの思いもよらぬ感情が表に......。視聴者の共感を呼び始めたのである。

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阿部サダヲ/Sadao Abe : Sadao Abe talked during an opening event of a movie, Yume Uru Futari, at Shinjuku, Tokyo, Japan on September 8, 2012. (写真:鈴木 幸一郎/アフロ)


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■多弁だった1~2話

まず多弁だった1~2話を振り返っておこう。ドラマは冒頭から医師の名言で始まった。
「止まない雨はありませんよ。夜明け前が一番暗いんです......ま、余命的にはあと半年ほどになりますかね」
その宣告を受けた持本舵(阿部サダヲ)のセリフも振るっている。
「雨はやんでもまた降る」「努力は裏切りますけど、諦めは裏切りませんから」
絶望感がリアリティをもって伝わるセリフだった。

他にも、含蓄のある言葉が多かった。
「大丈夫って2回言ったら大丈夫じゃない」
「誰だって、過去に置いてきたい自分っています。今さらもう、過去の自分は助けてあげられない」
「愛されてたって、愛してくれなかった人のほうが心に残るもんね。人は手に入ったものじゃなくて、手に入らなかったもので出来てる」
「あのね、私が布団から手を離さないんじゃなくて、布団が私を離さない」

■第3話の概要

林田印刷所へ空き巣に入ったるい子(小林聡美)と舵は、鉢合わせたハリカを誘拐してしまった。
ところがカレーショップに戻って来ると、会社の上司に拳銃を発砲し逃走中の西海(川瀬陽太)が潜伏していた。そして西海は、ハリカをだしに亜乃音から身代金を取ろうと言い出した。

一方、荒らされた自宅を見た亜乃音は、ハリカの仕業と思いつつも少しだけ打ち解け合い弾んでいた心に寂しさを感じる。そこに林田印刷所の元従業員・中世古理市(瑛太)が訪ねてくる。理市が、久々に工場に現れたのには目的があった。

舵は拳銃をちらつかせる西海の隙をついてハリカを逃がそうとしたが、舵の人柄を知ったハリカは、舵を置いて逃げることができない。
その頃、西海の指図で身代金の取り立てに亜乃音の元へ来たるい子は、ハリカが亜乃音の娘ではないことを知る。しかし亜乃音が選んだ行動は、意外なものだった......。

■一転して行間のドラマへ

第3話では、名セリフが多弁には語られなくなる。
もっとも熱い言葉は、「死んでもいいって言うのは、生まれて来て良かったああって思えたってことだよ。生まれて来て良かったって思ったことないうちは、まだ死んでもいいって時じゃない。生きよう、生きようよ」だった。幼馴(な)染の西海に舵が発したセリフだった。
いきもの好きな一面を持ち、根は良い部分を持ち合わせている西海。
るい子に「この人は悪い人じゃなくて、頭が悪い人ですから」と言われてしまうくらい、残念な部分がある。短絡的で、物事がうまく行かない時、責任を自分以外の誰かに押し付けてしまい、それまでの人生が空回りし続けて来た点である。
先の舵のセリフは、「生きるってことは素晴らしいよ。俺には分かるんだ。俺末期ガンなんだ」と続く。さんざんひどい目にあわされても、幼馴染を何とか立ち直らせようする。ところが西海は、けん銃で舵を殴り「すぐわかるうそつくな」と吐き捨てる。相手の心の真実が見えない西海の不幸である。ゆえに悲劇へと突き進んでしまう......。

一方、優秀だったが会社で出世できなかったるい子は、とっさの言葉が次々に出てくる。
西海が「スマホ出せ」と脅しても、「『嫌ですよ』は『嫌です』です。『嫌です』に説明は必要ありません」と切り返す。
西海のいうことを聞かないようにと、舵に「こんな人に耳を貸す必要ありません。この人は悪い人じゃなくて、頭が悪い人ですから」と断言する。そして激怒した西海が「謝れ」と怒鳴ると、「人に謝れなんていう人が一番頭が悪い」とやり込める。
こうした多弁さの中で、とっさのうそも飛び出す。亜乃音と身代金を巡っては、「一千万円では足りないと言われた」と、その場の判断であると思い込んでいた大金を引き出そうとする。「ハリカが"あのお金"のことを話したのか」と亜乃音に問われれば、「そうだ」とうそを重ねる。
結局、悲劇へ突っこんで行った西海と対照的に、るい子は一千万円をせしめる。第4話以降の展開の鍵を握るのだろうが、"策士策に溺れる"という言葉がチラチラするのは筆者だけだろうか。

そして真実は行間に漂う。
身代金を支払うことでハリカと再会できた亜乃音に、ハリカは「娘じゃないのに、なんで? なんでお金渡しちゃったの? ごめんなさい」と謝る。これに対し亜乃音は、「何を謝るの。何でだろうね。......何でだろうね」としか答えない。多弁な名セリフより、言葉と言葉の行間の沈黙にこそ力があると見る者は気づく。

いかがだろうか。
第3話は1~2話とはこんな風に転調している。視聴率こそ初回9.2%・第2話7.2%と来て、第3話は6.6%に下がってしまったが、静かだからこそ力強い真実があることを、しっかり訴えている気がする。
そのメッセージを正しく受け取るには、やはりこのドラマは落ち着いてみられる時間と環境下で、反芻(はんすう)するように見るのが一番のようだ。

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文責:次世代メディア研究所

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