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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』発表から今年で20年。それを記念しデラックス・エディション版がリリースされる。
本作は、佐野が当時新たに結成したニューバンドThe Hobo King Bandとともに、米国ウッドストックのベアズヴィルにある納屋を改造したスタジオへ向かい、共同プロデューサーのジョン・サイモンとともに作り上げたアルバムである。デジタル・レコーディングが隆盛だった当時、全編アナログ・レコーディングによるレイドバックしたそのサウンドは、シーンに衝撃をもって受け止められた。が、それは後に、新たな潮流の一つとなる"オルタナティヴ・カントリー"を予見する内容であったことは、もはや明らかだ。名うてのプレイヤーたちによる名演の数々や、ストーリーテリング的な佐野の歌詞世界は、20年たった今も色褪(いろあ)せることなく心に響くことだろう。

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


【LIVE映像】佐野元春「マナサス」(from THE BARN TOUR '98 LIVE IN OSAKA)>>


昨年リリースした新作『MANIJU』を引っさげ、現在The Coyote Bandと共にツアー中の佐野に、当時を振り返ってもらった。

【インタビュー映像】佐野元春インタビュー(from THE WOODSTOCK DAYS)>>


■ メインストリームに対する「オルタナティヴ」な音楽を自分が作り、それを気に入ってくれた人たちと連帯を深めたかった

──今年でリリース20周年を迎えるアルバム『THE BARN』についてお尋ねします。まず、このアルバムを一緒にレコーディングしたThe Hobo King Bandは、どのようにして結成されたのでしょうか。

佐野: 1980年にレコーディング・アーティストとしてデビューして、THE HEARTLANDというバンドを結成し、彼らとは14年間活動を続け1994年に解散しました。その後、2年ほどインターバルがあったのですが、その中で『Fruits』というアルバムを作るんですね。これは、バンドというフォーマットから解放されて、佐野元春の音楽性を全部出し切るような、いわば「初のソロアルバム」と言える性格のものでした。

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


──ええ。

佐野: で、そのレコーディングのために、セッションプレイヤーに何人か集まってもらった。大変スキルのあるミュージシャンたちが集まってくれました。その中の何人かが残る形で、The Hobo King Bandとなっていく。だから、『Fruits』というアルバムは言ってみれば、The Hobo King Band結成のための一つのオーディション・アルバムだったと、今振り返れば思いますね。

【リマスター盤ビデオクリップ】佐野元春 「ヤング・フォーエバー」>>


──『Fruits』のレコーディング前に、「INTERNATIONAL HOBO KING BAND feat. 佐野元春」という名前でツアーを行い、アルバムのリリースを経て「佐野元春 and The Hobo King Band」が1997年に誕生します。

佐野: ツアーやレコーディングの中で、お互いの絆を確かめ合ったし、お互いの演奏をリスペクトし合うような良い関係が築き上げられた。それを携え、僕たちはウッドストックへ向かったわけです。

──レコーディング場所をウッドストックにした理由は?

佐野: バンドのメンバーと長い時間を過ごすうち、それぞれの音楽的背景が明らかになっていくわけですけれども、The Hobo King Bandに共通していたのは、70年代初期の良質な米国サウンドだったんです。ザ・バンドやリトル・フィート、アラン・トゥーサン、英国のバンドですがトラフィック......等々。カントリーロック、スワンプロック周辺のバンドやシンガーソングライターの作品です。であれば、当時のミュージシャンの聖地へ行って、僕らの音楽性を理解してくれるプロデューサーのもと、バンドの門出にふさわしい最高のアルバムを作ろうじゃないかと。

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


──デジタル・レコーディングが主流となりつつあった当時、ウッドストックではアナログ・レコーディングを行っていたそうですが、その理由は?

佐野: 当時の日本では、デジタルのダンスポップ/ロックが大流行していました。ボーイミーツガール的なリリック、コンピューターで制御されたビート。そんな中、「ブルーズやカントリーミュージックを基盤としたバンドサウンドで勝負しよう」なんて言ったものだから、「佐野くん、アタマがおかしいんじゃないか?」なんて言う人も中にはいました(笑)。でも、そこにはちゃんとメッセージがあるんです。僕はミュージシャンですから、言葉でああだこうだ言うのではなく、自分が作るミュージックでスタンスを明らかにしてきた。僕は、この『THE BARN』というアルバムを作ることで、音楽に対してどう向き合っているかを示したかったんです。

──それは、メインストリームの音楽へのアンチテーゼというわけではなく?

佐野: アンチテーゼではない。僕もメインストリームの音楽を楽しんでいたし、悪い音楽と思っていたわけではないんです。そういったメインストリームに対する「オルタナティヴ」な音楽を僕らが作り、それを気に入ってくれた人たちと連帯を深めたかった。僕にはその自信があったということだよね。決して無謀なことをしたつもりはなかった。

【リマスター盤ビデオクリップ】佐野元春 「ドクター」>>


──例えばヒップホップが誕生すれば、それをいち早く取り入れるなど、佐野さんはデビュー以降、常に新しい音楽に対してアンテナを張り巡らせてきたわけですし、そういう意味ではこの時期にウッドストックでアナログ・レコーディングを行ったというのは、決して「懐古主義」的な気持ちだったわけではなく、そこに次の時代の扉を開く、何か新しい音楽があると思ったからなのでしょうね。

佐野: そう。僕は、いつもみんなより先の世界を見ている。「先の世界を見たい」と思っているんだよね。なぜなら僕は「アーティスト」だから。みんなより先にその場所へ行き、そこをスケッチして、そしてみんなのところに持ち帰る。「こんな景色があったよ、どう思う?」って。ハッピーならそれでいいし、ハッピーじゃなかったら「状況を変えていこう」って呼びかける。そんなことを、僕はずっと繰り返している気がするんだよね。

──そうですね。

佐野: 『THE BARN』を作った頃のメインストリームは、さっきも言ったようにダンスポップ/ロックが主流だったけど、90年代も終わって2000年代に突入すると、今度はウィルコのようなオルタナティヴ・カントリーのバンドサウンドを求める若い世代が現れた。僕はそれを予見していたし、そういう仲間たちとこの先出会えたらいいなと思ってこのアルバムを作っていたんじゃないかなと思います。だから、「懐古主義」ではなくむしろ「クリエイティヴな冒険」、佐野元春流のフロンティア精神にのっとった活動だったと思う。

■あの時代にあのアルバムをリリースできたことがまず奇跡ですし、リリースできたという事実だけで満足でした

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


──今回のデラックス・エディションではアナログ盤も同梱されます。最近また若い人たちの間でアナログレコードが見直されていて、海外ではダウンロードかアナログを買う若者が増えていますね。

佐野: アナログ盤の再評価は、海外ではすでに4、5年前から始まっていて。時々訪れるブルックリンでは、CDショップは消滅してしまったけどレコードショップは新しくオープンしている。僕も「DaisyMusic」というインディペンデントレーベルを主宰していますが、そこでも近作はCD、デジタル配信と並行してアナログ盤もリリースしています。僕らの古くからのファンは、アナログレコードに対してノスタルジックな思いを持っていますし、新しいファンもアナログレコードを楽しんでくれているんです。どちらも素晴らしいことだと思います。

──当時のレコーディングについて、印象に残っているのはどんなことでしょうか。

佐野: 実を言うとウッドストックへ行く前、僕の妹が亡くなるという、僕にとってはとてもショックな出来事があった。そんな状態でレコーディングができるのか心配もしたんですけど、バンドのみんなや、ウッドストックの豊かな自然が僕を癒やしてくれて。その中でレコーディングが行われたので、『THE BARN』を作った時のことは、今でも特別な記憶として残っていますね。

【リマスター盤ビデオクリップ】佐野元春 「風の手のひらの上」>>


──ある意味ウッドストックのレコーディングは、佐野さんにとって必然であり、癒やしでもあったわけですね。

佐野: そう思います。僕が好きな詩人の一人、H.D.ソローの書いた『森の生活』という本があるんだけど、それを日本から持って行ってウッドストックの森の中で読んでいると、とてもリアリティがあり胸に響いたんですね。そんなことをしながら、家族の死を少しずつ乗り越えていったというか、癒やしていったというか......。それを自然なものとして、受け取ることができるようになったのかもしれないですね。

──『THE BARN』を作り上げた時、佐野さんはどんな心境でしたか?

佐野: 当時も今も、僕はこのアルバムを誇りに思っています。バンドのメンバーもベストを尽くしてくれたし、プロデューサーのジョン・サイモンも、仕事を超えた愛情をあのアルバムに注いでくれた。あの時代にあのアルバムをリリースできたことがまず奇跡ですし、その事実だけで満足でしたね。音楽的評価は必ず後からついてくるという確信もあった。「佐野が何やらウッドストックで、新しいバンドとレイドバックしたアルバムを作ってきたらしい」なんて言われ、当時は評価も真っ二つだった。今この時点で評価されなくても、「大丈夫。構わないよ」という気持ちではいました。

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ジョン・サイモン、ガース・ハドソンがゲスト参加した歴史的公演「THE BARN TOUR '98 LIVE IN OSAKA」


──先ほど佐野さんがおっしゃったように、ウィルコをはじめとするオルタナティヴ・カントリーなどを通過した耳で『THE BARN』を聴き返してみると、また新たな発見があって驚かされます。バンドのメンバーそれぞれの音楽的ルーツがちりばめられているし、ものすごく情報量のある作品だなと思います。

佐野: その通りです。サウンド的にも情報量が豊かだし、当時の自分が反映されたリリックがそこにはしっかりと刻み込まれていました。例えば仕事をなくし、愛に破れた男が「この先どうしたらいいのか?」と途方にくれた様子をスケッチした曲もあるし、結婚を経験したけどその後うまくいかず、新しい人生のことを考えている女性についての曲もある。もちろん、亡くなった妹にささげた曲もありますし、"優しい心を持つ""ドラッグディーラー"という、二律背反がテーマの「ドクター」という曲もありますね。

──決して明るい内容ではなかったわけですね。

佐野: そう。でも、そうした苦味のある個人的なテーマにひるむことなく取り組んで、「ポップロック」として普遍的なテーマへと昇華することにチャレンジした。それがアーティストの役割だと僕は思っているんです。そういう意味で、この『THE BARN』は、ソングライターとしての自分が試されたアルバムだったとも思っていますね。

■ロックンロールが持つ「自発性」「楽天性」というものを、どうにか僕のソングライティングやバンドの演奏能力で楽しんでもらいたい

──個人的なテーマを「架空の物語」へと昇華することの意義や意味は、どこにあると思いますか?

佐野: 例えば僕自身が「悲しい」とか、そんなことはどうでもいいわけです(笑)。僕個人の悲しみを単につづったところで、誰にも共感なんてされない。それを「公の意識」とするためには、ストーリーとしてまとめ上げる必要がある。つまり「ストーリーテリング」ですよね。「物語」というのは、老若男女にかかわらず、そこに触れて何かを感じ取るはずですから。僕は、そういうリリックが好ましいと思っているんです。聴く人を問わず、また聴く人によって意味や輝きが変わるのが、優れたリリックだと思っています。

──よく、「物語」や「ファンタジー」のことを「絵空事」と軽く見る人もいますが、「物語」や「ファンタジー」という形でしか表現し得ない「リアリティ」も確実にあって、佐野さんは「ストーリーテリング」という手法でそこに挑戦されているのかなと思いました。

佐野: そうだね。若い頃は、どんなことをテーマにしたって共感できるし踊れる。でもソングライターとして20代を超え、30代、40代となると、若い世代との共振度はだんだん希薄になってきます。そうなると、やはりしっかりしたストーリーを作って、若い人たちに一つの映画を見てもらうような、そんな歌詞にする必要がある。それができれば、またそこで世代を超えたリレーションを楽しめるのかなと。その考えは今も続いていますね。

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ジョン・サイモン、ガース・ハドソンがゲスト参加した歴史的公演「THE BARN TOUR '98 LIVE IN OSAKA」


──『THE BARN』がリリースされてから20年がたち、その間にテロや震災など、国内外ではさまざまな出来事が起こりました。その中で佐野さんの歌いたいことは、どのように変化していきましたか?

佐野: 世の中に大変な事件が起こることは、「常」です。「こういう事件が起きたから、自分はこう変わった」ということは特になくて、常にソングライターとして「人」に対して好奇心を持ち、興味を持ち続けてきました。よく、僕の曲を聴いて「政治的に君は右なのか? 左なのか?」なんてバカなことを訊(き)いてくる人がいるんだけどね、僕はアーティストであって、左とか右というような、イデオロギーの中で作品を作っていないんです。僕はそんなところからは解放され、もっと自由な立場でいる。ただ、世の中で大事な「愛」のことや、人と人との「関係性」のことがテーマになって曲が生まれることが多いのだけど、それと同じように、人間のありよう、人間の関係といったものを深く、深く見つめていくと、その先に「政治」があったりするのは自然なことなんですね。

──確かに。

佐野: 僕がシンガーソングライターとしてこの20年で気をつけてきたのは、「目の前のことを、自分の目で正確にスケッチする」ということ。そして「それをポップロックとしてまとめる」ということ。だから、僕自身はソングライターとして全然ブレているつもりはないのだけど、時代が更新することによって、人々がいろいろな思いで僕の楽曲に触れ、その解釈はいろいろなふうに変化していくんだなということを、ちょっと面白く感じていますね。

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


──聴く人によって、あるいは聴く時代によってさまざまな受け止め方ができる作品が、本当に優れた作品なのかもしれないですね。

佐野: もちろんね。でも僕はソングライターとして、「今」を生きている人たちに楽しい音楽を届けたい。「生きてるって、そんなにひどい事じゃないよ?」っていう、ロックンロールが持つ「自発性」「楽天性」というものを、どうにか僕のソングライティングやバンドの演奏能力で楽しんでもらいたいと思っている。ただそれだけであって、「主義主張をしたい」なんて気持ちはこれっぽっちもないんです。

──昨年リリースした新作『MANIJU』を引っさげて、現在The Coyote Bandはツアーの真っ最中だそうですね。

佐野: アルバムがとても好評で、「早く全国ツアーをやって欲しい」という要望もあり、ようやくそれが2月からスタートしました。今回は、ちょっと自分なりの挑戦もあるんだけど、でもここで話すとネタバレになっちゃうから(笑)、今から来る人は楽しみにしていて欲しいですね。

(インタビュー・文/黒田隆憲)

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


佐野元春 90年代の名盤「THE BARN」発表から20年。その価値と意義を解き明かすデラックス・エディション版を3月28日(水)発売。

【BOX内容】
< 2枚の映像ディスク(Blu-ray&DVD)>
・Blu-ray: アルバムリリース後の全国ツアーファイナルを収録した「THE BARN TOUR '98 LIVE IN OSAKA」(2018デジタル・リマスター版「マナサス」初収録。ジョン・サイモン、ガース・ハドソンがゲスト参加した歴史的公演)
・DVD: ウッドストックでのドキュメント映像(初商品化)
<アナログレコード>
テッド・ジェンセンによる2016年リマスター音源を使用。アナログ・カッティングは、名匠バーニー・グランドマンが手掛ける。米国プレス版
<写真集>
未公開フォトをメインに、貴重なテキストと制作エピソード等で構成される。 160ページ予定

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佐野元春による90年代の名盤『THE BARN』、デラックス・エディション版が3月28日(水)リリース


◆ 佐野元春
1956年3月13日、東京・神田生まれのシンガーソングライター/ミュージシャン。時代を鮮やかに切り取った文学的な歌詞と、ポップスやロック、ブラックミュージックなどさまざまなジャンルを内包した多彩なサウンドプロダクションで人気を博す。80年、シングル「アンジェリーナ」でデビュー。その後、「ガラスのジェネレーション」「SOMEDAY」「Young Bloods」「約束の橋」などヒット曲を多数輩出。日本のロックシーンを牽引(けんいん)するアーティストとして、デビューから30年を経た今も第一線で活躍を続けている。2017年には通算17枚目のアルバム『MANIJU』をリリース。座右の銘は「グッド・ヴァイブレーションズ」

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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