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 名匠・鶴橋康夫監督が、小松重男の短編小説「蚤とり侍」をモチーフに描いた『のみとり侍』(5月18日公開)。本作で、長岡藩のエリート藩士でありながら、藩主の逆鱗(げきりん)に触れ、猫ののみとりの仕事を命じられてしまった小林寛之進を演じたのが、緩急自在の演技で多くのファンを持つ俳優・阿部 寛だ。「鶴橋組の映画に出演するのは夢だった」と語った阿部が、鶴橋監督の魅力や、自身の俳優人生について語った。

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阿部 寛 主演映画『のみとり侍』(5月18日公開)


【特報】映画『のみとり侍』>>


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■映画への自信をなくしている時期に声をかけていただいた

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名匠・鶴橋康夫監督が、小松重男の短編小説「蚤とり侍」をモチーフに描いた『のみとり侍』(5月18日公開)


――映画作品で鶴橋組に参加するのは初めてでしたが、お話を聞いたときにはどんなお気持ちでしたか?

阿部: 率直な気持ちは自分で大丈夫なのかなと......。鶴橋監督からお声をかけていただいたとき、果たして監督の期待に応えられるのだろうかという思いが強く、二つ返事でお答えができなかったんです。監督にお会いして、今回の役柄がどれだけ自分を必要としているのか、真意を伺ってからお返事した方がいいのかなと思いました。

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阿部 寛 主演映画『のみとり侍』(5月18日公開)


――よろこびよりも不安が大きかったのですか?

阿部: もちろん、とてもうれしかったです。僕が30年前、事務所に入ったとき、食事会でたまたま鶴橋監督にお会いしてからずっと監督の作品に出ることが夢でした。そこから長い年月がたって、40歳近くのとき、佐藤浩市さん主演のドラマ「天国と地獄」で、長いセリフのある役をやらせていただき、今回またその作品から10年たって、主演のお話をいただいたんです。本当に念願叶っての映画だったので、光栄でした。ただ、不安も多かったのは事実です。

――鶴橋監督とお話しされて、不安は解消されたのでしょうか?

阿部: 監督から、「自分はこの原作を40年以上持ち歩いているが、映画化はずっと無理だと思っていた。しかしある時君のドラマを見て、もしかしたら君だったらこの難題を乗り越えてくれるかもしれないと思った。だから一緒に戦ってくれ」と。それを聞いて覚悟ができました(笑)。

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撮影現場での鶴橋康夫監督『のみとり侍』(5月18日公開)


■豊川悦司&寺島しのぶの演技に脱帽!

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名匠・鶴橋康夫監督が、小松重男の短編小説「蚤とり侍」をモチーフに描いた『のみとり侍』(5月18日公開)


――小林寛之進という役は、多面的で非常に魅力的なキャラクターでしたが、台本を読んでどんなイメージを持たれましたか?

阿部: 鶴橋監督は「伸び伸びやってくれ」とおっしゃってくださった。いくらでもコミカルに演じられるような役柄だったのですが、台本がすごくおもしろかったので、シチュエーションのなかで、おいてけぼりになっていくような存在の方が、より味が出るのかなと感じていました。

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寺島しのぶ、亡き妻・千鶴に瓜二つの女 おみね役『のみとり侍』(5月18日公開)


――その意味では、共演者の方々との呼吸は重要ですね。

阿部: 僕は、受けの芝居ですよね。でも豊川(悦司)さんも寺島(しのぶ)さんも、大竹(しのぶ)さんも、風間(杜夫)さんも、みなさん鶴橋組の常連で、どんな技術も持ち合わせている方々なので、そこに身を投じているだけで寛之進の存在は浮き出てくるんじゃないかと思っていました。

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豊川悦司、浮気を封じられた伊達男 清兵衛役『のみとり侍』(5月18日公開)


――豊川さんや寺島さんと対峙(たいじ)してみていかがでしたか?

阿部: 豊川さんは「こんなに難しい役は初めてだよ」とおっしゃっていたのですが、そんなことは微塵も感じさせず、まったく迷いなく見えました。台本とはひと味違う清兵衛を完全に作り上げていました。見ていて本当におもしろいし、豊川さんの芝居に引っ張っていただきました。寺島さんとは「新・近松心中物語~それは恋~」という舞台で、200公演ぐらいご一緒していて信頼関係ができていたので、初日からいきなり肌を合わせる芝居でしたが、安心感がありました。おみねという役の複雑な環境に置かれた女をを台本以上に鮮やかに演じてくださって、とても魅力的でした。鶴橋監督との信頼関係がなせる業だなと思いました。

■鶴橋監督の現場は愛に満ち溢(あふ)れていた

――鶴橋組の魅力は?

阿部: 特別な監督ですね。役者だけではなくスタッフの方々、携わるすべての人に愛されている。常に周囲のスタッフやキャストに「なんか文句あるか?」って声をかけてくださるんです。これは「大丈夫か?」って意味なのですが、みんながやりやすいように率先して雰囲気を作ってくださる。愛に満ち溢(あふ)れた現場なんです。

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風間杜夫、猫の蚤とりを生業とする貧乏長屋の旦那 甚兵衛役『のみとり侍』(5月18日公開)


――30年前に初めてお会いしたとおっしゃっていましたが、当時からそういった雰囲気は変わらないのでしょうか?

阿部: ご本人は「違うよ」とおっしゃいますが、そのときから大監督でした。前作の『後妻業の女』を拝見したとき、キレキレだなと感じたのですが、「今回の映画はどんな感じなのですか?」と聞いたら、にやりとして「あんな感じだよ」と話していたんです。78歳にして、恐ろしい体力と気力で、ノリに乗っている。自分も鶴橋監督の年齢になったとき、情熱を持って作品に取り組んでいるのが目標です。

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大竹しのぶ、貧乏長屋のおかみ お鈴役『のみとり侍』(5月18日公開)


――阿部さんも精力的にいろいろな役にチャレンジされていますね。

阿部: 飽きっぽいんですよね。だから新しいものがくるとうれしいですし、前とは違うものを演じたいという気持ちは常にあるので、バリエーションの幅が広げていったのかもしれません。

――ご自身で意識的に役柄の幅を広げようという取り組みはされているのでしょうか?

阿部: そうですね。20代のときは、結構偏った役しか引き寄せることができなかったのですが、「これだけ背が高くて使いづらい俳優でも、いろんな役柄ができる。」ということを見せたくて、30代のときは意識していろいろな役をやりました。

――手をつけていないジャンルはあるのでしょうか?

阿部: NHKの朝ドラはやったことはないですね。ああいう生っぽい作品は未経験です。自分のなかでは一番新しいものかな。豊川さんも今回(「半分、青い。」で)初めて出演されますよね。

■長い俳優人生なかで、ピンチだった瞬間

――寛之進はひょんなことから、のみとり侍へと飛ばされてしまい窮地に陥りますが、阿部さんにとって長い俳優人生なかで、ピンチだった瞬間はありますか?

阿部: 27歳ぐらいのとき、ほとんど仕事がなかったんです。俳優に対するおもしろみは感じていたのですが、どうやって仕事を楽しんだらいいのかわからなかった。先が見えず、厳しかったですね。「これじゃまずい」と思って、先輩の俳優さんから、少しでも何か盗もうと意識を変えた記憶があります。

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阿部 寛 主演映画『のみとり侍』(5月18日公開)


――意識を変えたら景色は変わりましたか?

阿部: 状況はなかなか変わらないですが、間口を広げることによりチャンスは舞い込んできますよね。NHKで高倉健さんが出演するという話を聞いたら、ワンシーンだけでもいいから現場に行って見てみようとか、そういうことをしていくうちに、いろいろな縁が舞い込んできました。間口を広げると、少しずつ運命も変わっていくのかなとは思います。

――座右の銘を教えてください。

阿部: 特別ないんですよね。でもデビューしたてのころ、本当になにもわからないとき、映画の現場で、年配のカメラマンの方に「自分の身は自分で守らないとダメだぞ」と言われました。そのときは、言葉の意味がまったくわからなかったのですが、10年後ぐらいに、「自分の役柄は自分しか守ってやれないんだ」と気づいた。言葉の意味がようやくわかったんです。いまは衣装からなにから、きちんと自分で考えて物事を決めるようにしています。人のせいにしないためという部分もあるのですが、しっかり納得して物事をやるように心掛けています。

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貴方のみ、愛しています――。愛と笑いの痛快人間喜劇、ここに誕生。
生真面目なエリート侍が、たった一つの失言で、ある日突然左遷されてしまった。侍の新たな仕事は、お客の飼い猫の蚤(のみ)をとるサービス業。しかし、その実態は......?
『後妻業の女』の監督・鶴橋康夫が約40年間、映画化を熱望し続けた本作。阿部寛、寺島しのぶ、豊川悦司、斎藤工、風間杜夫、大竹しのぶ、前田敦子、松重豊、桂文枝が出演。
映画『のみとり侍』は5月18日公開。

(C)2018「のみとり侍」製作委員会
(取材・文・撮影:磯部正和)
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阿部 寛(あべ・ひろし)
1964年6月22日生まれ、神奈川県出身。1983年、大学在学中にモデルデビューを飾ると、大学卒業と同時に映画『はいからさんが通る』(87年)で俳優デビュー。その後、つかこうへい作の舞台に出演するなど、演技の幅を広げ、数々のドラマや映画で主演を務めることとなる。2012年公開の映画『テルマエ・ロマエ』では、古代ローマ帝国の浴場設計技師を演じ、第36回日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞をはじめ、多くの映画賞を受賞。2018年は、本作のほか『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』、『北の桜守』に出演している。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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