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 「半沢直樹」シリーズや「下町ロケット」、「陸王」、「民王」、「アキラとあきら」など数々の作品が映像化されてきたベストセラー作家・池井戸潤。そんな池井戸作品、初の映画化となったのが『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)だ。ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故を巡り、事故を起こした運送会社、トラックを製造した自動車メーカー、取引銀行という立場の違う人々が、それぞれの"正義"に立ち向かう姿を描いている本作。「しっかり作られている良い作品でした」と感想を語った池井戸氏が、原作者として映像作品に携わるときのスタイルや、小説執筆への思いを語った。

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池井戸作品、初の映画化『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


【予告編映像】映画『空飛ぶタイヤ』>>


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■待望の初の映画化、これまでは「縁がなかった」

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長瀬智也演じる主人公、プライドをかけた男たちの戦い『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


――ご自身が書かれた本の映画化が初、というのは意外な印象を受けます。これまでヒットしてきた連続ドラマと、2時間という映画尺で表現することは異なるのでしょうか。

池井戸: そうですね。いままでも映画化の話はあったんですが、いろいろな理由でうまくいかなくて。縁がなかったんですね。でもこの作品の話をいただいたときは、シナリオを拝見して「これなら」と思えたので、初めての映画化になりました。

――シナリオを読んで許諾を出したという話ですが、連続ドラマでもそういう判断ですか?

池井戸: 連続ドラマの場合は、オファーの段階でシナリオが全部そろっていることはないので、座組み、例えばTBSの日曜劇場やWOWOWのドラマWなど、これまでお付き合いがあって信用できるところは、事前にシナリオを見せていただかなくてもOKを出します。

■エンターテインメント作品として成立しなくてはいけない

――映画をご覧になった感想は?

池井戸: シナリオを読んだときのイメージどおりで、しっかり作られた良い作品だったと思います。

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長瀬智也演じる主人公、プライドをかけた男たちの戦い『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


――主演の長瀬智也さんの演技はいかがでしたか?

池井戸: 僕はあまり外見についての描写をしないので、誰に演じていただいても違和感がなかったと思いますが、ここまで格好いい主人公という意識はなかったです(笑)。ただ、長瀬さんは運送業者の経営者としてまったく違和感がない、確かな演技をされていました。

――本作は、企業の不正について書かれていますが、ご自身が銀行に勤められていたときの経験は創作に生きているのでしょうか?

池井戸: そこまで自分の経験とリンクしているわけではありませんが、舞台となっている80年代半ばは、ちょうどコンプライアンスという意識が出始めたころで、ある程度自分が感じていたことが反映されているかもしれません。ただ、社会的な不正やその理不尽さを訴えかける作品ではなく、あくまでモチーフにしているだけです。この小説はエンターテインメント作品であり、映画もエンタメとして成立しなくてはいけない。そして成立しているとも思います。

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製造元の自動車メーカー社員・沢田悠太役を演じたディーン・フジオカ


――池井戸さんの作品には、共通して大きな力に負けずに正義を貫くというテーマが感じられます。

池井戸: エンターテインメントなので、主人公が「不正に負けて、お金をもらって終わり......」だと作品にならないですよね。構造上そういう展開にならざるを得ないということがありますね。

――長く作品を執筆されていますが、エンターテインメントも時代によって大きく変化しています。いまのご時世のなかで創作することは難しいですか?

池井戸: 昔と今では状況が全然違うので、アジャストせざるを得ないですね。一番大きいのはSNSの存在です。ちょっとしたことでもすぐ拡散するし、一度広がると二度と消えない。世論みたいなものが、昔と比べると、明確に急速に形成される。作品を発表したときの対応力が試される時代になったなという思いはあります。

■映像化は基本お任せだが、事前に「ビジネスシーンだけは監修」する理由

――映像化される際、なにか原作者としてされることはありますか?

池井戸: 基本的にはプロデューサーや監督にお任せしています。なぜかというと、小説の読者と映画やドラマの視聴者は違うから。小説は内面を書くものですが、ドラマや映画は、目に映るもので描いていく。当然同じ手法ではダメだと思うし、僕に映像のお客さんのことはわからないですからね。

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事故に疑問を抱く取引先銀行社員・井崎一亮役を演じた高橋一生


――原作使用許諾を出したらお任せするというスタンスですか?

池井戸: 最初はそうでしたが、最近はシナリオの中のビジネスシーンだけは細かくチェックするようにしてします。たまにステレオタイプの間違ったシナリオ、たとえば、「銀行員は必ず意地悪な貸し渋りをする」といったものが上がってくるので、そういう場合は、こちらから代案を添えて戻します。ただ戻すだけでは、直すのも大変でしょうからね。

――脚本監修的な役割も果たしているのですね。

池井戸: 最近はね。日曜劇場やドラマWは、視聴者が40~60代の方が多く、会社経営をされている方もいる。ビジネスシーンに違和感があると、ドラマ全部が否定されてしまう危険性がある。それを避けるためには、チェックする必要があるのかなと思っています。

■視聴率がいいと本は売れる!?

――連続ドラマが始まると大変ですね。

池井戸: 大変ですよ(笑)。シナリオを直して、視聴率が良かった日にたまたま行ったお店にまた行くといったゲン担ぎをして、翌朝プロデューサーからの電話を待つ......こちらもある意味では必死です(笑)。

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長瀬智也演じる主人公、プライドをかけた男たちの戦い『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


――ドラマの視聴率がいいと本が売れるものなのでしょうか?

池井戸: 売れ行きが上がる本と上がらない本があるようですね。しかも、その作品だけが売れる場合と、ほかの本も相乗効果で売れる場合があると聞きます。僕の場合は、ほかの本にも手をのばしていただけているようなので、助かりますけれどね(笑)。

――キャスティングについては?

池井戸: キャスティングについては、プロデューサーや監督がイメージを膨らませているはずなので、僕がなにか言うことはありません。そもそも映画もドラマもそうですが、映像化の世界で原作者というのは欄外なんです。映像の賞に原作賞というのはないですよね。スタッフの一員ではないということなので、口を挟むことはしません。

■「陸王」は当初500枚の予定が1000枚以上に!

――小説を書くうえで大切なことは?

池井戸: 発想力ですね。書くための基本的な知識や経験があったとしても、ひらめいたものをどう書くかが大事。それが創作の7~8割を占めると思うのです。でも発想力というのは、持って生まれたものであって、磨けば光るものではないのかなと思います。

――これまで多くの作品を世に送り出していますが、一番生みの苦しみだった作品は?

池井戸:7月に発売する「下町ロケット ゴースト」は、今までで一番難産でした。読んだらそう思わないかもしれませんが、内容が難しくて。専門的な知識が必要な上に、物語の良さがなかなか発見できなくて。どこが光るのか、手のなかでコロコロと転がしているうちに、枚数だけが増えて。ハッと気づくとおもしろくないものが400字詰め原稿用紙で800枚ぐらいできていた(笑)。そこから半分ぐらい削って、また新たに書き足すみたいなことを延々とやっていました。さすがに飽きてしまいました(笑)。

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池井戸作品、初の映画化『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


――作品によって執筆期間は違うのですか?

池井戸: 全く違いますね。「下町ロケット2 ガウディ計画」なんて20日間ぐらいで書けたのですが、続編であるにもかかわらず、「下町ロケット ゴースト」は半年ぐらいかかりました。書いてみないと本当にわからない。例えば、「陸王」などは、最初500枚ぐらいでサクっと終わらせようと思っていたのに、書き始めたらどんどん増えて、1000枚近くになってしまいました。

――途中でボツにしてしまうこともあるのですか?

池井戸: もちろん。物語が膨らんでいかない小説はゴミですね。どこかで引き返さないといけない。納得いくまでやります。

――座右の銘を教えてください。

池井戸: 座右の銘なんて政治家の先生しか考えていないんじゃないですか? なんだろう、健康に気をつける、ぐらいしか思い浮かばないな(笑)。

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「事故か、事件か。正義とはなにか、守るべきものはなにか――」
観る者すべての勇気を問う、世紀の大逆転エンターテインメント。池井戸潤作品初の映画化に、日本を代表するオールスターキャストが集結。出演は、長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、笹野高史、寺脇康文、小池栄子、阿部顕嵐、ムロツヨシ、中村蒼ほか。

(取材・文:磯部正和 撮影:志和浩司)

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池井戸作品、初の映画化『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)


池井戸潤(いけいど・じゅん)
1963年 岐阜県出身。1998年「果つる底なき」で第44回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家デビュー。2010年、「鉄の骨」で第31回吉川英治文学新人賞を受賞すると、2011年には「下町ロケット」で第145回直木賞を受賞。これまで数々の執筆作品が映像化され、2013年日曜劇場で放送された「半沢直樹」は最終回の視聴率が42.2%を記録する大ヒットドラマとなった。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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