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TBSの日曜劇場「この世界の片隅に」が、一風変わった健闘ぶりを見せている。
2話まで終わった時点で、平均視聴率は10.7%。12%前後の『刑事7人』『遺留捜査』『義母と娘のブルース』などには及ばないものの、特段ドラマチックな事件が起こるわけではなく、あれだけ淡々と日常生活を描いているにもかかわらず、二桁維持という健闘を見せている。
同ドラマの不思議な魅力を考えてみた。

サムネイル

松坂桃李/Actor Tori Matsuzaka 「The Nutcracker」 on October 29, 2014, Tokyo, Japan. (写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


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■結婚するまで

ドラマの主演は、浦野すず(松本穂香)と北條周作(松坂桃李)。
すずが9歳の時に二人は人さらいに捕まり、機転を利かせて一緒に逃げた共通の経験を持つ。そこで一番印象に残っているのは、二人で口にしたキャラメルの味。番組のテイストは、ファンタジーのような、風変りな始まりだ。
予定より遅い帰宅となったすずは、母(仙道敦子)に「何があったん?」と問われる。「何があったんじゃろ?」と返すすず。やっぱり相当ピンボケな感じの少女だった。

祖母(宮本信子)の家で、座敷童(実は少女・リン)がすずたちのスイカを盗んで食べているところに出くわす。「もっともろうて来ましょうか?」と尋ねるすず。特に驚いたり、騒いだりしないあたりは、非凡な少女の味が滲(にじ)むシーンだ。

すずが18歳になった時、兄(大内田悠平)が出征する。
「お兄ちゃん、もう威張る相手がおらんじゃろ。だから、ほれ」とすずは兄に頭を殴ってよいと差し出す。「もう殴らん。おまえらを守るのが、わしの仕事じゃ」と兄。殴られる度に泣いていたのに、すずのズレた思いやりと、兄のけなげさがクスッと笑いを誘う。

19歳で周作(松坂桃李)の家に嫁入りするすず。
周作の姉・径子(尾野真千子)に「あがいなボーッとした子、どこがええんじゃ」「周作にはもっと慎重に嫁を選ばせたかった」と言われてしまうが、嫌みが堪えているように見えないすず。柳に風の振る舞いが、見ている者の心をジワジワ和ませる。

初回のクライマックスは婚礼の夜。ようやく二人になったすずと周作だ。
「うちらどっかで会うたんですか?」とおっとり刀のすず。「あんたと一緒に生きていきたいんじゃ。よう来てくれたのう」と周作。"時代状況や周囲の思惑とは距離を置き、淡々と生きていく個人の視点でドラマを描く"という宣戦布告が静かな感動を呼ぶ初回だった。

■結婚後の暮らし

第2話では祝言の翌日が描かれる。
新婚生活初日は、足の悪い義母・サン(伊藤蘭)に気を使いながら、多忙なうちに一日が終わる。
義父と夫が帰宅し、四人の夕食。気を利かせた周作が「うまいのお、すずさん」と料理をほめる。「それはお義母さんが作りんさったけえ、うまいはずです」と俯(うつむ)くすず。当時の当たり前な生活にも、一人一人にとっては一生懸命なギコチナさがあった点が微笑ましい。

就寝前。周作は"人手が欲しいために、嫁を迎えたのではないかとすずが思っているのでは"と心配した。ところが「うちはそれでうれしいですよ。うちが必要じゃあいうことですよね」とすずは答える。「あんたに働き手として来てもろうたわけじゃない......」と周作は思いを伝えようとするが、疲れたのかすずは眠ってしまっていた。
大上段に構えた主張を排した、淡々としているが真剣に生きている個人の実存。ボディブローのように、制作陣の思いが伝わってくるシーンだ。

次第に近所の女たちと交流していく姿が描かれた後、周作の姉・径子が里帰りする。
これがきっかけで、すずも里帰りすることになる。実家で久しぶりに羽根を伸ばすが、ふとしたことで周作との出会いを思い出すすず。ちゃぶ台に「呉にかへります」の書置きを残し、周作の元へ急いで帰る。二人の間で愛情が育っていく予感に満ちた名シーンだ。
周回遅れではあるものの、いろんな事実に気づいていくすず。しかし、だからこそ、戦争という大変な時代にも、時代状況とは距離を置いた一人一人の人生があったことがヒシヒシと伝わってくる。

■西日本豪雨

同ドラマの舞台は広島県呉市。
番組は戦時中の庶民の暮らしを中心に描いているが、放送が始まったのは西日本豪雨の一週間後。ドラマで出てくる呉は、もともと自然豊かな美しい街。いわば日本の原風景と言っても過言でない景色だった。それが大雨によって甚大な被害を受けてしまった。

ドラマの今後も、原爆により広島が大変な姿に変わり果ててしまうのだろう。
今回の放送と災害は、"単なる偶然"だが、ドラマを見るにつけ"単なる偶然"と片付けられない意味を感ずる。
「優れたジャーナリストは、偶然、現場に居合わせる」という。"個人起点で時代を描く"このドラマも、意図せずして大状況に遭遇している。

こうしたタイミングで描かれたドラマだからこそ、視聴者の心に一層の化学反応を起こすであろう。柔らかなテイストの中に、しっかりとした思いを入れ込んだ同ドラマ。まだこんな表現方法がドラマには残されていたと気付かされる名作であることは間違いない。

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文・次世代メディア研究所

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