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"銭湯アイドル"祝茉莉は、そんじょそこらの銭湯好きではない。将来自分の銭湯を経営するために、番頭の修行をしているほどの情熱の持ち主だ。いくら若者の間でブームが訪れているといっても、経営者の高齢化は年々進み、銭湯の数はどんどん減ってきている。これからの銭湯文化を担う気概に満ちた祝に、その魅力を語ってもらった。

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(GYAO! トークバラエティ「ぶるぺん」出演 "銭湯アイドル"祝茉莉)


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■修行のため銭湯2つで働く

――祝さんは、新潟出身。京都旅行に行った際、たまたま銭湯に行く機会があって、そこで番頭さんに「おやすみなさい」と声をかけられたのに感動して銭湯好きになったそうですね。

祝:「地元を離れてホームシックみたいになっていたとき、お風呂に入ってほやほやになった後にかけられた『おやすみなさい』がすごく響きました。当たり前のように『おはよう』とか『おやすみなさい』とか言える場所ってあまりないですよね。人同士の距離の近さが、私のいた田舎に似ているんですよ、銭湯って」

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――感動して銭湯好きになっただけではなく、「自分も銭湯やりたい」と思い立ったのがすごいですよね。もともと銭湯的なものにハマる素養があったんでしょうか?

祝:「今日の服装を見てもらっても伝わると思うんですが、もともと日本的なものが好きなんです。神社とか仏像がかっこいいと感じていて、あと実家も米農家ですし。自分のルーツを思うと、銭湯に惹(ひ)かれたことはすごく納得できます」

――修行として実際に銭湯で働いていらっしゃるんですよね。

祝:「都内の銭湯で3年間ほど受付のバイトをしていたんですが、やっぱり将来自分で銭湯を経営するとなったら、ただ番台に座って受付するだけじゃなくて裏の仕事もできないといけません。だから今は2つの銭湯で働いていて、『気楽湯』(埼玉・川口)ではまきを入れて火を沸かしたり、掃除をしたりする開店準備、専門用語で"仕込み"の修行をしています。もう1店舗、都内の銭湯では閉店後の"掃除"を学んでいます。」

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――祝さんのような若い方が入ってくるのは、銭湯業界で歓迎されるものなのでしょうか?

祝:「一人暮らしのおばあちゃんなんかだと、銭湯で、番頭さんや他のお客さんと話すのが1日の唯一の会話という場合もあります。東京都浴場組合の理事長さんは、『そういう人を1人にしてはいけない。銭湯はコミュニティでもあるから、これ以上減らしてはいけない』と考えていらっしゃいます」

――銭湯ブームと言われてはいますが、経営者が高齢のため廃業してしまう銭湯が増えていますね。

祝:「銭湯を引き継ぐことを専門用語で"預かり湯"というのですが、浴場組合でも預かり湯を促進させようと頑張っています。なので私もお声がかけられたら、すぐ動けるように、収支計算や経営など、いろいろ勉強中です。また、預かり湯をさせてもらえそうな銭湯も常に探しています。『営業時間が短くなった』や『定休日が増えた』など、どんな些細(ささい)な情報でもいいので、何か心当たりがあれば教えてほしいです」

■番台はゆるくない! 完全な肉体労働

――銭湯業界の"中の人"になって驚いたことはありますか?

祝:「ただ憧れていた時期は、『ゆるやかでいいなぁ。番台で編み物とかできそう』と思っていたんですが、裏の仕事もするようになってみると、完全な肉体労働なことがわかりました。とくにまきは1時間ほどで消えてしまうので、こまめに見に行って調節するのが大変です。あと、拘束時間がすごく長いんですよ。たとえば朝8時に開けるとなると、6時からまきを入れて仕込んで、そこから営業して、お昼の12時になったら2時間かけていったん掃除して......と、ずっと現場から離れられません」

――となると、やはり年をとると大変な仕事ですね......。

祝:「そうなんです。だから、おばあちゃんの番頭さんだと、『1人だから掃除に3、4時間かかるわ』とか聞きます。銭湯の設備自体は壊れていないけれど肉体的に経営が厳しくなってしまった人のところに、うまく若い人が入っていくための窓口ができたらいいなと思っています。あとは銭湯の仕事について知ってもらうために、掃除など裏のことを動画でもいろいろ紹介していきたいです」

――ご自身の理想の銭湯を作りたいという思いと同時に、銭湯文化それ自体を盛り上げたい思いがあるんですね。祝さんは、銭湯のどんなところに魅力を感じているんですか?

祝:「壁にペンキで絵を描く"銭湯絵師"さんは今、日本で3人しかいないんです。そういう特殊なお仕事も関わっていたり、建築など美術的にも素晴らしい場所がたくさんあったり、銭湯って伝統文化なんです。あとは一人暮らしの人の交流の場所になったり、友達同士で一緒にお風呂になるとすごく話しやすくなったり、コミュニティとしても面白い場所ですよね。老若男女が集まるからこそ、変わった出会いもあります」

――私も銭湯でお年寄りの方と話すことが時々あるんですが、この年代の方と話す機会は普段ほとんどないなと感じます。

祝:「きっとスーパーで一緒になったとしても話しかけられないと思うんですよ。お互い裸だから、緊張感もほどけるんじゃないでしょうか。知らない人同士でもコミュニケーションが生まれやすい場だと思います」

■上野の燕湯で喝入れする商売人たち

――祝さんのオススメの銭湯はどこでしょうか?

祝:「建物でいうと、『帝国湯』(東京・日暮里)さんです。ここは『都内一の渋い銭湯』と呼ばれていて、いかめしい名前に恥じないかっこよさがあります。あとは、早朝から開けていらっしゃる『燕湯』(東京・上野)さん。お湯って、疲れを癒やすこともできるし、自分に喝を入れることもできるんです。朝行くと、1日の始まりに朝湯で喝を入れに来た商売人の方々が多くて、ちゃきちゃきした雰囲気が面白いです。あと、京都の『サウナの梅湯』のご主人には、いろいろ相談させていただいています。湊さんという27歳の方で、ボロボロで赤字経営だった梅湯を繁盛させました。いろいろメディア出演されているので、ご存じの方も多いかもしれません」

――祝さんが将来作る銭湯で、やってみたいことはありますか?

祝:「飲み物を月ごとに変えてみたいです。東京っていろんな場所から人が集まるじゃないですか。だから今月は山口県の飲み物、来月は愛知、愛媛......というふうに月ごとのフェアをしたら、老若男女が集まる面白さがまた促進されるんじゃないでしょうか。あとは撮影やイベントへの貸出も積極的にやっていきたいです」

――祝さんはいろいろ勉強されて、もう物件さえあれば始められる状態なんですか?

祝:「事前の準備はしているけど、飛び込んでみないとわからないことは、たくさんあります。だから早く飛び込んでみたい欲はありますね。最近、私が初めて行って感動した京都の『日の出湯』さんに6年ぶりくらいに行ったんです。おかみさんと大おかみさんに『ここから銭湯のことが大好きになって、今は2つの銭湯で働いていて、いつか経営がしたいんです』とお話しているうちに、ぼろぼろ泣いてしまったんですが、『頑張ってね、おおきに』と声をかけていただきました。そこも結構お年なのですが、しんどい中でも続けてくれていたことがすごくうれしかった。私も意思を受け継いだ銭湯をやりたいです」

◆祝茉莉(しゅくまり)
1994年10月22日生まれ、新潟県南魚沼市出身。「みんなに愛されながら銭湯の番台で年をとっていくことが自分のアイドル活動」という考えのもと、"銭湯アイドル"として活動中。「ミスiD2015」草野絵美賞を受賞。
座右の銘は、「欲のままに」。

(取材・文/原田イチボ@HEW

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