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人はみな、誰かにとっての"代用品"。
それでも人はみな、自分の"居場所"をもとめて必死で生きている。
"普通"を忘れなければ、"この世界の片隅に"きっと"居場所"はある。
TBSの日曜劇場「この世界の片隅に」は、当たり前だが大切な真実を、何気ない生活の中で静かに訴えるドラマだ。

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松坂桃李/Actor Tori Matsuzaka 「The Nutcracker」 on October 29, 2014, Tokyo, Japan. (写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


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■"代用品"

すず(松本穂香)が主人公の「この世界の片隅に」では、"代用品"という言葉が何度も登場する。
お米の代わりの白い粉。それで作ったすいとんを食べる際、家族が繰り返し"代用品"と言う。

「やっぱり代用品はさえんね」
「しょうがないじゃろ、代用品なんじゃけえ」
「ほうよね、代用品でもあるだけぜいたくよね」

こうしたやりとりに、すずは怒りだす。
「そんなに代用品、代用品、言わんでください」

夫・周作(松坂桃李)のお風呂を焚(た)く際にも、炭の代わりの落ち葉で作った「たどん」が出てくる。

「何作っとるんじゃ、すずさん」
「たどんの代用品を作っとります」
「ほお、考えちょるのう」
「しょせん代用品です」
すずの言葉には、どこか棘(とげ)があった。

夜、周作がすずを抱き寄せようとした際、すずは拒否した。

「もしかして、子供ができんこと、気にしとるんか。すずさん」
「いえ、代用品なんかなあ思うたら......」

周作は、母親の"代用品"として北條家に迎えられたと、すずが疑っているのではと心配していた。
ところがすずは、「うちが必要じゃあいうことですよね」と疑念を一切はさまない。ボーっとしているようで、すずの"普通"さは尊い。

■"居場所"

それでもすずは、周作にとっての白木リン(二階堂ふみ)の"代用品"という疑念は払拭(ふっしょく)できなかった。防空壕(ぼうくうごう)作りの際の径子(尾野真千子)の失言。
「あん時、(周作は)結婚せんでえかったんかもね」
すずの心にわだかまりが生ずる。

すずが径子の娘・晴美と竹を集めに出かけた際。
見かけたリンドウから、蔵で見つけた茶碗にもリンドウが描かれていたことを思い出す。さらに白木リンの着物にも描かれていたことも......。
堪らず周作のノートを引っ張り出す。その背表紙は、やはり切られていた。リンは「優しい客が書いてくれた」と言って、その部分の紙切れをうれしそうに見せていた。
白木リンが周作の昔の女性だったという疑念が、確信に変わった。

ところがリンとすずは、再会した際にこんな会話をしていた。
妊娠は間違いだった。北條家での居場所が心配。
すずの心配に対してリンは、「子供でも、売られても、それなりに生きてる。誰でも、この世界に居場所はのうなりゃせんよ」と励ます。
「なんか悩むんが阿保らしゅうなってきたわ」と返したすず。"居場所"について、"普通"でいれば良いという悟りが開かれた。

■"普通"であること

"普通が尊い"という考えは、幼馴染の水原(村上虹郎)が、海軍での勤務の休みに、すずに会いに来た夜の会話でクローズアップされる。

「普通じゃのう、すずは......」
「当たり前のことで怒って、当たり前のことで謝りおる。ええなあ、そういうの」
「(軍隊は)そうじゃないことだらけじゃあのう。じゃけ、すずが普通でうれしいわ。安心した」
「ずーとこの世界で、普通で、まともで、おってくれ」

次の出陣での戦死を覚悟している水原は、こうも付け加える。
「わしが死んでもな、一緒くたに英霊にして拝まんでくれ。笑ろうて、わしを思い出してくれ」
「それができんようなら、忘れてくれ」

"普通"を包囲して、"普通"を"普通"のままでいられなくする戦争。"代用品"としてでも"居場所"を見いだしていく、"普通"の暮らしを破壊して行くのが戦争だ。
すずと周作がようやく"普通"の夫婦になり始めた「この世界の片隅に」は、ここから一挙に"普通"でなくなっていく。
ターニングポイントなる第5話は、"普通"というディテールをじっくり描いた必見の回と言えよう。

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所

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