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平均視聴率13.6%と好調な実績を残した「下町ロケット2」。
終盤は12.6%→15.5%→16.6%と数字を急伸させた。同時に正月2日に放送された特別編も14.0%と衰えぬ勢いを見せた。
実は同ドラマが多くの人を惹(ひ)き付けるのは、小が大を倒す"TBS日曜劇場×池井戸潤"の勝利の方程式の他に、底流に流れる哲学があるからだ。

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Hiroshi Abe, October 25, 2017(写真:2017 TIFF/アフロ)


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それは「下町ロケット」特別編で遺憾なく発揮されたが、実はその2日後に放送された『風の谷のナウシカ』でも色濃く出ていた人生観だ。

■最終回のあらすじ

佃(阿部寛)は、日本の農業の未来を救うべく、300年続いた殿村家の田んぼで「アルファ1」で実験できることになり、製品化を急いだ。
そして首相視察のデモンストレーションイベント当日。到着が大幅に遅れた首相は、敵方のダーウィンのデモを見たら帰ると言い、しかも中小企業を「いじめるなよ」と言い残して去ってしまった。

首相や多くの観客が見ていない中でのアルファ1の走りは順調だったが、ニュースでは全く取り上げられなかった。やがてダーウィンもアルファ1も、発売が来年7月と決定したが、ダーウィン陣営は直後に4カ月の前倒しを仕掛けてきた。

前倒し発売に絡んで、佃製作所と帝国重工の性能評価のテストが行われることになった。
佃製作所が短期間に全社員一丸となってトラブルに対応する姿は、同ドラマの真骨頂だ。そして勝敗がついた際の、藤間社長(杉良太郎)の「問答無用の性能勝負だ。いいね、的場君」と言い置くシーンは圧巻だった。組織で悔しい思いをしたことのあるサラリーマンなら、感動と羨望(せんぼう)のまなざしで見入るシーンだろう。

■特別編が本当の最終回

12月末放送の最終回は、それなりに留飲が下がる出来だが、ちょっと首をひねる終わり方だった。
佃製作所の部品を載せたアルファ1は、ランドクロウと名称を変更して発売になった。そのころダーウィンには大量の予約が殺到したが、モニターの農家からは不具合のメールが何通も来ていたのである。

この思わせぶりなエンディングは、実は正月1月2日放送の特別編に含みを持たせる演出だった。

発売後、佃製作所と帝国重工の無人トラクターは、発売から数週間たっても売り上げが伸びなかった。一方、ギアゴースト&ダイダロスが手掛けるダーウィンは絶好調。
形勢逆転を狙う帝国重工の次期社長候補・的場(神田正輝)は、帝国重工の取引先である下請け企業に圧力をかけるやり方で、ダーウィンの在庫を払底させ、ライバルの勢いを止めた。
ところが逆に、的場に恨みを持つ重田(古舘伊知郎)と伊丹(尾上菊之助)は、的場を失脚させることに成功する。両者の闘いは泥沼の様相を呈し始めた。

ところがドラマは、こうした恩讐(おんしゅう)を超えて両者が協力する関係に展開する。佃も気持ちの持ち様を反省するが、重田と伊丹もモノづくりにとって大切な心に覚醒する。
実はそれは、新潟で対立していた殿村と稲本(岡田浩暉)が、台風の直撃を前に再確認したコメを育てることの意味でもあった。

■ナウシカの振る舞い

『風の谷のナウシカ』の冒頭では、ナウシカの師ユパと再会する。そのユパが命からがら逃げ戻り、連れて帰ったのが、怯(おび)えるキツネリスのテトだった。それを見たナウシカは、テトを落ち着かせるため、わざと手に噛(か)みつかせる。テトはそれで初めて、ナウシカが信用できる仲間と安心できた。

エンディングも似ている。
怒り狂うオームの群れを止めるべく、ナウシカはオームの子供とともに、オームの前に降りる。ところが群れは止まらず、ナウシカを天高く跳ね上げてしまう。その直後、オームの群れは、攻撃色の赤い目から青へと変わって行き、ようやく停止した。
そして亡骸となってしまったナウシカだったが、オーム達の黄金の触手により天高く掲げられ、傷ついた箇所は癒やされていく。そこでナウシカは目を覚ます。伝説通りの「青木衣をまといて、金色の野に降り立つべし」と同じ風景が広がったのである。

■寛容さと自己犠牲

要は両物語とも、自己犠牲こそが相手の信用を勝ち取る最善の策と言っている。
こうした気持ちの持ち様こそ、人間に許された崇高な心の動きだ。帰せずして正月の初めに放送された二つの物語は、偶然にも同じテーマでつながっていた。

今世界は、自己中心的な政治が蔓延(まんえん)し、不毛な報復合戦が展開しつつある。譲りあうことで相互理解するにはほど遠い状況だ。
日本でも、ネット上で不寛容な攻撃や批判が飛び交う。政治の世界でも、相互に歩み寄れない状況がいくつも散見される。

2019年は、ぜひ良い方向に変化して欲しい。
そのためにも、見逃してしまった方々は、「下町ロケット」特別編の本当のテーマを見直していただきたい。できれば、併せて『風の谷のナウシカ』も見直すと、心が浄化されることに違いない。
時代の次を示す優れた番組が、たまたま同時期に放送され、視聴者の心に刺さっていく。こんな機能を残すテレビは、やはり"まだ捨てたもんじゃない"と思わざるを得ない。

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所

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