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初回2時間SPの視聴率が14.7%と好調なスタートを切った「刑事ゼロ」(木曜20:00~20:54・テレビ朝日系)。
1999年に始まったテレビ朝日「木曜ミステリー」枠の初回としても、歴代最高の数字だという。会心のスタートダッシュだ。
ところがネット上の声には、「興味がうせる最悪の出だし」「脚本が無理矢理で難し過ぎる」「手垢が着き過ぎて新味が無い」などの酷評も散見される。
"視聴率が高いのに酷評が目立つ"のはなぜか。そこには視聴率に強いテレ朝・刑事ドラマの宿命という一面がありそうだ。

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Ikki Sawamura on February 3, 2018, in Chiba, Japan.(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


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■視聴者の声

もちろん視聴者の声には、肯定的なものも多い。

「やはり、刑事ものはテレ朝さん、盤石です」
「共演者がイマイチでも設定や話の内容が変でも、刑事ものばかり続いても、なんだかんだ面白く見てしまう」
「見立て殺人 金田一みたいでなかなか見ごたえがありました」
「物語がしっかりしていて、なんか相棒のように何回もやりそうな安定したドラマ、おもしろい!」

週3本あるテレ朝ドラマは、水曜が刑事モノ、木曜がミステリー枠。そして残り1本も、「未解決の女」「BG」「緊急取調室」など、事件モノの場合が多い。しかも主役が水谷豊・沢口靖子・上川隆也・沢村一樹(今回)など、中高年が務めることが多い。つまり似たトーンのドラマが多く、登場人物が華やかさに欠ける。
それでも近年は、テレ朝ドラマの視聴率は他局より高い。数多くの視聴者に支持されていることが分かる。

では否定的な声はどんなものか。

「脚本が詰め込み過ぎで分かりづらい」
「単にドラマ作りのために無理やり源氏物語を引っ張り出した」
「源氏香やら小説やら、ごちゃごちゃしすぎ」

どうやら全体像が把握しにくい、難しい出来という声が最も多かったようだ。

■バランスは抜群

では難しい内容なのに、なぜ視聴率は高かったのか。途中で視聴をやめる人が多くなかったからだ。
その要因の一つは、ところどころに配された「クスっと笑える」要素にある。

例えば主人公・時矢歴彦(沢村一樹)は記憶喪失になってしまったことを伏せて刑事を続けている。よって同僚などの名前も覚えていない。喪失後に初めて出会った同僚が誰だかわからずシドロモドロになった際、バディを組む新人刑事・佐相智佳(瀧本美織)が、機転を利かせて肩書と名前をかなり不自然に呼ぶ。

殺人現場に出向いた際、初の臨場となる新人刑事が耐えられるか心配しておきながら、かつて敏腕刑事だった時矢の方がゲロをもよおしてしまう。

ドローンで撮影した写真を組み合わせて作った京都の写真に対して、20年間の記憶がない時矢はドローンという言葉が理解できなかった。ところが「ドローン、ああ今何でもどろんですね」と言いつつ、忍者が消える際のしぐさをしてしまう。

前半は数分に一回、こうしたシーンが出てくる。
事情がわかっている視聴者に、記憶喪失を乗り越えて奮闘する主人公の行動を、微笑ましく見せようと言う演出だ。謎解きを基本としながらも、主人公への共感を集め、かつ飽きさせない抜群のバランスで構成されている。

■卓越した能力

20年分の記憶がない時矢だが、刑事として卓越した能力は残していた。
地図や現場を一瞬みただけで、ディテールを頭の中に入れてしまう。匂いに敏感で、そこから事件の関連性を紐(ひも)解いていく。被疑者などの発言も、表情などからうそか本当かを嗅ぎ分けてしまう。

こうした能力が、源氏物語での構図を模した今回の連続殺人事件を、解決へと導いていく。ふつうの視聴者からすれば、「なるほど」と目から鱗(うろこ)のシーンが何度も出てきて痛快に見ていられる。
これも「なんだかんだ面白く見てしまう」「(テレ朝の)刑事ものは盤石」と感ずるゆえんだろう。

ところが源氏物語での5人の登場人物と物語が、今回の殺人事件と相似形になるという構造は、時間軸に沿って紹介されても全体像を把握するのは容易ではない。図形やグラフで関係性は理解できても、物語や関係者の心理状態が加わるので、難しさは2乗3乗に増している。

ドラマ全体を肯定的に見るか、否定的に見るかの分かれめは、こうした点にあったようだ。
制作者は刑事モノ・事件モノが多いなかで、新味を加えるために新たな挑戦を続けている。その同じテイストの番組が多い点を「手垢が着き過ぎ」、新たな挑戦を「難し過ぎる」と否定するか、その難解さを乗り越えようとする演出を楽しむかは、見る側の姿勢にもよりそうだ。
そして現状では、少数の否定派がネットで大きな声となりがちで、もの言わぬ多数派がゆえに視聴率は最高に高くなっているようだ。

番組ラストでは、一つのヤマを解決した時矢が、記憶喪失を理由に刑事を辞めようとする。
ところが相棒の新人刑事は、時矢の可能性を理解し「私は時矢刑事の記憶喪失がバレないようにするための最適なバックアップデータ」と言って、時矢の退職を踏みとどまらせる。

脳の外部化というIT・デジタル時代ならではのバディ誕生の瞬間。これもテレ朝ドラマに新味を出す努力の一環といえそうだ。
仮に一部難しい構図があったとしても、物語のバランスの良さ、新味を出すためのアイデアなど、見るべき要素は多い。新しい時代の新しいドラマ作法を楽しんでみてはいかがだろうか。

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所

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