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好きなことを仕事にしている女性がいる。
雑記「デザインのひきだし」創刊以来の編集長・津田淳子(44歳)だ。デザインというディープな情報の専門誌だが、発売の度に短期間で売り切れる優れものの雑誌だ。
ただし好きなことで生きる津田は、限られた条件の中で最善を尽くし、そして結果にこだわり続ける。
「そのルールこそが人生を映し出す」がコンセプトの「セブンルール」。仕事と自分を守り続けるためという津田は、好きなことを仕事にしたい人にとって、まさにバイブルのような存在だ。

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イメージ画像(写真:アフロ)


『デザインのひきだし』雑誌編集長・津田淳子の『セブンルール』>>

■表紙に1番お金をかける

出版不況にもかかわらず、「デザインのひきだし」は書店に並ぶと完売続出となる。
"自分の考えたデザインを具体的に表現したい!"という人たち向けに、包装紙・印刷・加工など、ディープな情報を分かりやすく伝える専門誌(発行部数1万2千・年3回発行・価格2000円)。

書店の平積みの中でも圧倒的な存在感を放っているが、最大の特徴は表紙だ。
紙に刺繍(ししゅう)を施したもの、卵パックの素材で作ったものなど、毎号趣向を凝らしている。印刷加工に詳しい人も、詳しくない人も、「何だこりゃ? 」と思ってもらえる表紙を目指しているという。

結果として製作コストの中で、表紙の割合はかなり高くなっている。
「人は見た目」という言葉があるが、確かに表現作品は第一印象は決定的だ。例えばネット上の動画は、タイトルとサムネイルの出来で、再生数は各段に違ってくる。
この辺りの勘所をおさえた編集長ぶりだ。

■定価2,000円をキープする

出版関係者が驚くのは、表紙だけではない。2000円という雑誌の値段だ。
表紙にこだわり、付録をふんだんに付け、写真だけでは伝わらない紙や印刷の手触りなどを伝えるようにしている。ただしそれでは、コストがとても予算におさまらない気がするからだ。

「本を作っている人は結構貧乏性」なので、予算が無尽蔵だと逆にどうしたら良いかわからなくなる。逆に限られた中での工夫が、本を作る意味につながるという。
結果として、それが雑誌を手に取った人の驚きにつながり、好調な販売につながっている。

■ユニークな取材法

津田が実践している仕事のルールで目を見張るのが以下3つ。
一つ目は「見たことない紙は持ち帰る」。紙と印刷技術大好きな津田だけあって、亀の子束子のポスター・飛行機のエチケット袋・台湾のシューマイ包み紙など、出会った面白い紙を次々に持ち帰っている。紙の材質や印刷法などを、ルーペでのぞき研究しているという。

二つ目は「知ったかぶりをしない」。
津田の取材は、基本的なところからひたすら質問する。
もちろんネットや他で調べられることは、当然チェックして取材に出かけている。ところが現場に行くとわからないことはたくさんある。包み隠さず教えてもらうという姿勢が、新たな発見につながり、仕事の面白さとなっている。

三つ目は「気になる技術は名刺で試す」。
気に入った紙や印刷加工技術に出会うと、自分の名刺を作ってもらっている。四方金加工・特殊な紙・シール印刷など、20種類以上の名刺を作ってもらっている。こうして現場での感動を、そのまま記事に生かしているのだという。

■原稿は写真の説明文から書く

雑誌ができるプロセスの中で、感心したことがある。記事ページの作り方だ。
最初にやるのが写真選び。そしてキャプション(写真の説明)を書いて、初めて本文を執筆する。それらが全てできた後に、タイトルやリードにとりかかる。一般的には本文からというケースが多いが、津田は独自のやり方を採用していた。

実はテレビ番組の制作プロセスも似ている。
先にコメントなどの論理を決めてしまうと、頭でっかちで視聴者の感情を揺さぶる番組にならない。映像を編集した後に、最小限のコメントとすることで、分かりやすく面白い表現になる。
テレビ局など組織の中では、こうしたコツは先輩後輩の関係の中で伝えられるものだが、出版という文章(論理)の世界にありながら、独力で道を切り開いてきた津田はこの辺りの神髄を獲得していた。

■自分が読みたい本を作り続ける

雑誌が完成しても、津田の仕事は完了しない。
店頭に並び、どれだけ売れたのか、仕事の結果を毎日チェックするのも重要な仕事だ。
「自分で悔いなく作りつつ、結果も出る本を作りたい」と考えているからだ。
逆に言えば、売れなくなったらスパッと今の雑誌をやめ、別の企画をすると覚悟を決めている。
「知ることは楽しい」が、その自由を維持するためには、限られた条件の中で最善を尽くし、結果を出し続ける。甘くない世界だが、"好きなことで生きていく"ためには、これぐらいの覚悟と決意が必要ということだ。

いやあ、津田の仕事ぶりを丹念に見ると、面白い仕事を続けるコツが見えてくる。

『デザインのひきだし』雑誌編集長・津田淳子の『セブンルール』>>

文・鈴木祐司 次世代メディア研究所

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