秦 基博のアコースティックライブ"GREEN MIND"映像配信...「観たい人全員が観られる形に」

2019/5/ 4 12:00

秦 基博の人気アコースティックイベント「GREEN MIND(以下GM)」、単独開催としては5年ぶりとなる今回は「GREEN MIND at The Room」と銘打たれたスタジオライブが配信される。選曲も「ひまわりの約束」「鱗(うろこ)」「花」といったヒット曲から、最新曲の「仰げば青空」まで、シンガーソングライターとしての魅力がギュッと詰まったもの。映像配信ならではの演出も施された貴重なライブは見どころ満載だ。

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秦 基博、アコースティックライブ"GREEN MIND"


【ライブ映像】秦 基博 「GREEN MIND at The Room」>>

アルバム制作中だけど、なんとかして開催できないか?

「ここ数年ずっとGMをやれてなくて、今年はやりたいと思ってたんです。だけど今アルバム制作に入ってて、どうしても時間的に全国を回る余裕がなくて。かといって1ヶ所だけの開催にすると来られない人も多くいる。その中で『じゃあ配信はどうだろう?』というアイデアが出て、そこから具体的に内容を固めていきました。今回はとにかく観たい人全員が観られる形にしたかったんです」

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秦 基博、アコースティックライブ"GREEN MIND"


 秦 基博にとってGMというイベントはライフワークのようなものだ。自らの原点である弾き語りやアコースティック楽器にこだわった編成、屋外公演では緑あふれるリラックスした空間をファンとシェアし、ときには自分自身と一対一で対峙するストイックな姿も見せつける。
 ただ、そのGMも近年はアルバム『青の光景』のリリースやデビュー10周年が続き開催できないでいた。もっとも最近となるのが2017年、10周年記念公演の「LIVE AT YOKOHAMA STADIUM -10th Anniversary-」の第2部として「GREEN MIND AT YOKOHAMA STADIUM」を披露したこと。GM単独での開催となると全国13ヶ所17公演のツアーとして行われた「GREEN MIND 2014」までさかのぼらなければならない(もう5年前!)。
 それが今回、久しぶりに開催される。しかも無料配信という形なのでどんな地域に住んでいても関係なく観られるし、チケット争奪戦に巻き込まれることもない。
 そんな状況で開催された「GREEN MIND at The Room」はGMの魅力が濃厚に伝わってくると同時に、配信ならではの演出にトライした見応えのある内容になっていた。

3曲歌い終えて移動。そこには次の"部屋"が待っていた

 冒頭、秦は椅子に腰かけていた。横にはスタンドライトとローテーブル、奥の窓にはカーテンが掛かっている。秦はギターのチューニングを確かめると、それを爪弾き歌いはじめた。曲は「やわらかな午後に遅い朝食を」。アンニュイでいながら情熱を秘めたメロディは、ある日の午後、部屋でふと思い立って口ずさんでみたように感じられる。まさに"at The Room"のプライベート感。私たちは普段着の秦をのぞき見るような錯覚に襲われる。

「さあ、GREEN MIND at The Roomはじまりました。久々のGMですけど、今日は部屋の中でくつろぎながら、ゆっくりとアコースティックライブを楽しんでもらえればと思います」

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秦 基博、アコースティックライブ"GREEN MIND"


 部屋の中にいる秦から、部屋の中でモニターを眺めている視聴者へのメッセージ。続いて「SEA」。「やわらかな~」から一転、ビートの効いたカッティングがカーテンを揺らす。海岸線や砂浜、汐風や波の音が登場するドライブソングは、この季節に聴くのにぴったりだ。
 それが終わると聴き慣れたアルペジオが流れ出す。秦最大のヒット曲である「ひまわりの約束」。バックバンドを従えた形ではなく、素朴な弾き語りで歌われる「ひまわりの約束」は曲を通して秦と直接"約束"を交わすような親密感に満ちている。
 3曲終了すると、秦は立ち上がって移動した。すると横には新たな"部屋"が用意されている。

「みなさん、部屋の中でくつろいでますか? スタジオの中は結構緊張感があるんですけど」

 そんなMCをはさみ次の曲へ。演奏がはじまると背後にライトが当たり次第に全景が浮かび上がる。まるで雲が切れて太陽が顔を出すように周囲が明るくなる。画面に浮かび上がるのは緑の葉、緑の茎、観葉植物の緑、緑の光線......草木が生い茂る庭に面したテラスのような場所、それが今日の2番目の"部屋"となる。

少しずつシーンが変わることで飽きずに楽しんでもらえれば

 先にトリックをバラしてしまうと、今回の「GREEN MIND at The Room」は広いレコーディングスタジオで収録されている。ただその中身は、普通にスタジオで演奏して、それを撮影して配信という単純なものではない。
 まず、スタジオ内にあらかじめ3つの部屋のセットが組まれている。秦はひとつのセットで演奏を終えると、そのまま隣りのセットへ移動。今度はそこで演奏し、さらにまた横のセットに移って演奏――全体がそのような構成になっているのだ。
 設定が細かいだけに段取りは複雑である。それゆえスタジオは終始ピリピリした緊張感に包まれ、それが秦の演奏にスリルとテンションを注ぎ込む。

「スタジオの造り的にどう展開していけばいいのかってことを監督と一緒に考えましたね。最初は完全な部屋からスタート。そこから緑が出てきて、最後は部屋なんだけどアウトドアや青空が感じられる開けた画になるっていう。同じレコーディングスタジオでも少しずつシーンが変わっていった方が、観てる人も飽きずに楽しんでもらえるんじゃないかと思って」

 このあたり映像配信ならではの仕掛けというか、ただのスタジオライブで終わらせない演出の妙は本作の見どころのひとつと言えるだろう。

 さらに、完全な室内から窓の向こうに緑が見える部屋に移動した"第2幕"ではもうひとつの企画も行われた。今回のGMに向けてリクエストを募り、その上位曲の中から2曲をプレイしたのだ。
 最初に披露されたのは「プール」。GMでも何度も歌われた人気曲は静けさと激情がひだまりの中で交錯する。もう1曲はセカンドアルバム『ALRIGHT』収録の「新しい歌」。アウトロではソウルフルなシャウトが聞かれるなど演奏は熱を帯び、ライブは後半戦に突入する。

ピアニストを招き入れ、最新曲「仰げば青空」をセッション

 秦は"庭に面した部屋"を離れ、3つめの部屋に移動する。そこはこれまででもっとも広く、床にはラグが何枚も敷かれている。宙には青空の写真が入った額縁が吊るされ、床に白熱灯のような電球が転がされている。リビングのようにも見えるし屋外に出たようにも見える、非常にオープンな空間だ。
 そこで秦は「ひとりの演奏も淋しくなってきたのでピアノの方を呼びたいと思います。ピアノ、トオミ ヨウ!」とコール。あいみょんや土岐麻子などのアレンジで知られるトオミを招き入れてセッションを行う。

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秦 基博、アコースティックライブ"GREEN MIND"


 まずは秦の最新曲でありSoftBank music projectテレビCM「卒業篇」の曲としてOAされていた「仰げば青空」。トオミと共にアレンジしたこの曲を2人で一緒に演奏するのは今回が初だという。みずみずしいピアノの音が加わることでライブは新しい色をまとい、さらに次の「色彩」ではループマシンを使用。リズムやフレーズをリアルタイムで多重録音し、弾き語りなのにアンサンブルを聴かせるという魔法の技を披露する。
 リクエストでも人気の高かった「恋の奴隷」はトオミのピアノを伴奏に、ギターを置いて歌に専念。性的で耽美的な世界観は前出の"青空"のまさに対極で、それを強調するように大きな夕日が背後に映る。爽やかさ、激しさ、疾走感、人間の持つ闇......曲調といい手法といい、ここでは秦 基博というミュージシャンのバリエーションが次々と開かれ、ダイナミックに移り変わっていく。

次はリアルなGM、リアルなツアーで会えたら嬉しい

 トオミを送り出した後は、ラストスパートをかけるようにひとりで一気に駆け抜けた。
 特に代表曲のひとつである「鱗(うろこ)」の歌唱は圧巻で、秦は力強くねじ伏せるようにサビのハイトーンを歌い切った。まるで歌と歌い手が果たし合いをしているような緊張感。斬るか斬られるかの真剣勝負。これがGMの醍醐味であり、個人的には今回のGMのクライマックスはこの曲だったように思う。
 ラストは昨年リリースされた「花」。自身の心に問うようなフレーズは鋭く刺さり、最後のギターのエコーが消えてもあたりには余韻が残っていた。さまざまな種類の曲があったはずだが、全10曲を振り返ってみると今回は秦のストイックな側面が強く出たGMだったな――そう思ってしまうのは、最後の「花」の印象が鮮烈だったせいかもしれない。
 終演後、改めてこの「GREEN MIND at The Room」を観る人のために秦からメッセージをもらった。

「今回は僕の弾き語りやアコースティックセッションを堪能してもらえるGMを久々に開催しましたけど、GMの魅力が濃縮された形になったと思います。これまでGMに触れてきた人はもちろん、知らなかった人にとっても入口として楽しめるものになったんじゃないでしょうか。だから多くの人に観てほしいですね。今度はこれを味わってもらった上で、リアルなGMだったりリアルなツアーでお会いできたら嬉しいです!」

 ミュージシャン秦 基博にとって原点であり真骨頂でもあるGMというステージ。最新の素顔を刻み付けたこの日のパフォーマンスを素通りすることは、ちょっと考えられない。

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取材・文/清水浩司
写真/笹原清明
(C)Office Augusta

◆秦 基博
シンガーソングライター。2006年、シングル「シンクロ」でメジャーデビュー。"鋼と硝子でできた声"というキャッチフレーズで、全国のFM43局でパワープレイ獲得という記録を打ち立てる。その後「鱗(うろこ)」「アイ」「スミレ」など数々のヒット曲を出し、映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌としてリリースした「ひまわりの約束」は幅広い世代に支持される。2017年にはデビュー10周年を記念し横浜スタジアムでのライブを開催。最新曲はSoftBank music projectテレビCM「卒業篇」のために書き下ろした「仰げば青空」。