【インタビュー】「一つ一つのシーンに意味がある」映画『町田くんの世界』北島直明プロデューサーが語る、作品に込めた思い

2019/6/12 17:01


 これまで数々の傑作を世に送り出してきた石井裕也監督が「少女漫画原作の映画を撮る」という報道が出たとき、多くの映画ファンが驚くと共に「どんな作品になるのだろう」と胸を踊らされた。完成した作品は「まさに石井監督ならでは」という味つけで、一筋縄ではいかない観賞後感を得られる。そんな魅力満載の『町田くんの世界』について、『キングダム』『ちはやふる』『50回目のファーストキス』など数々のヒット作を生み出してきた北島直明氏に、企画・プロデュースを務めた作品に込めた思いを語ってもらった。
(こちらの記事には、映画『町田くんの世界』の内容も含まれます)

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企画・プロデュースを務めた北島直明氏 映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)






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■新人二人の抜擢理由とは

――大きな公開規模の作品で、ほぼ演技経験のない細田佳央太さんと関水渚さんという新人二人を主役に抜擢しました。

北島:この10年で少女漫画原作の作品が日本映画のカルチャーの一つとなりました。それ自体はまったくおかしなことではないのですが、ふと考えると、人気若手俳優の活躍の場は広がったのですが、一方で新人俳優が出てこられる場が少なくなっているな、と感じていました。そんななか「町田くんの世界」(安藤ゆき・著)という原作に出会いました。主人公の町田くんは人を信じることを疑わないピュアな少年。新人だけが持つフレッシュさを活かす事が出来れば、主演を新人の役者が演じる事が出来る作品だなと思ったんです。

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映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)
(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


――新人を起用しようという発想から始まった企画なのですか?

北島:いや特にそういう意図があったわけではないです。僕がアシスタントプロデューサーとして初めて映画の現場を踏んだのが『桐島、部活やめるってよ』だったのですが、あの作品もオーディションで選ばれた役者たちで構成されていました。その後の『ちはやふる』も演技経験の浅い役者たちだったんです。そういうことを経て、いつか新人で主演映画もできないかなという思いはあったのですが、それが主眼ではなかった。さすがに、新人に映画の主演を任せる、という事はとても勇気がいります。この作品も、オーディションを実施しました。実際、オーディションにはスイッチを押せば、すぐにでも売れるような役者たちが何人も来ていました。そんな中で、細田くんと関水さんの存在感は異質だったんです。計り知れない魅力があった。この二人に賭けてみたいと思わせてくれる存在だったんです。

――リスクも大きいですよね。

北島:もともと今の日本映画は新人の活躍の場が少ないですからね。でもこれが成功すれば、映画製作の幅も広がると思いましたし、アメリカンドリームじゃないですが「この世界には夢があるな」と思えることってすごく素敵じゃないですか。

■シーンごとに込められた深いメッセージ

――そうした思いを石井裕也監督に託した理由は?

北島:石井監督が撮る少女漫画がどのような映画になるのか観てみたかったんです。「町田くんの世界」という独特の世界観を持つ原作を、映画としてどのように再構築していくのか、すごく面白みを感じたんです。10年後に、今を振り返った時に「あの時代は少女漫画原作の映画が流行っていたけど、その中の傑作映画は『町田くんの世界』だよね」ってなる確信のようなものがありました。

――その言葉のとおり、想像を絶する映像描写と練られた脚本は、細部にまでわたって目が離せない作品になっていますね。

北島:僕も石井監督も、里吉優也プロデューサーも、脚本の片岡翔さんも、みんな同世代なので感じていることは近かった。いまの世の中を良くしようなんて大それたことを考えているわけではないのですが、生活をしていて、100点満点を常に出さないといけないという謎のプレッシャーがあって、生き辛い世の中だなという違和感があった。そこへのチャレンジではないですが、根底には「分からないことがあったっていいじゃないか。分からないことがあるから人生は素晴らしいんだ」というテーマを内在しました。

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映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)
(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


――具体的なシーンも触れたいのですが、町田くんが風船で空を飛ぶ場面があります。

北島:最初、石井監督から「町田くんを風船で飛ばしたい」と聞いたときは悩みました。「飛ばさないとダメですか?」と聞いたら「ダメです」と言うわけです。そこから2か月ぐらい、飛ぶ理由を考えました。池松壮亮さん演じる吉高の存在が飛ぶ奇跡を信じさせてくれました。町田くんが空を飛んでいるのを見て「見て!町田くん、町田くん」と言うのですが、みんなは下を向いているから気づかない。この映画では下を向いてスマホを見ているシーンが多い。それは自分以外には無関心で、奇跡が起きていても気づかない。またその前に(関水渚演じる)猪原さんが「好きな人に好きだと言ってもらえることは奇跡だよ」というセリフがあるのですが、素敵な奇跡って起きた方がいいに決まってる!奇跡を信じればいいんだ!という事で、町田くんが飛ぶ事は必然的な奇跡なんだと理解できたんです。

――シーンごとにいろいろな解釈ができる映画らしい映画ですね。

北島:少女漫画原作の映画って、人が人を好きになることを、とても分かりやすく描いているジャンル。そのなかで、敢えて違う視点からアプローチしているので、観た人がさまざまな解釈をしてくれればいいなと思っています。だから僕が話していることも、僕の解釈という程度に考えてもらった方がいいと思います。そんななか、すごく明確な答えを提示しているのが、先ほども話した「分からないことがあるから素晴らしい」ということ。森羅万象、すべてのことが分かってしまったら、人生つまらないですよね。

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映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)
(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


――「この世界は悪意に満ちている」というキャッチも印象的です。

北島:ちょうど2年ぐらい前に脚本を作っているとき、いま問題になっているバイトテロ的なものが出始めていました。この作品のなかでも、喫茶店でメチャクチャ怒られている人をニヤニヤ笑いながら動画で撮っている人も描かれていますが、完全なる悪意ですよね。その世の中の空気が嫌で...町田くんは、携帯画面など見ずにいつも上を向いている。だから、困っている人を見つけられる。下を向いている人間にはそれが気づけないんです。

――池松さん演じる吉高も町田くんに心を動かされた一人ですね。

北島:吉高は、原作ではあまり登場シーンがないんですよね。人気者を引きずり降ろそうとする悪意、不倫とかも描いていますが、最初その位置にいる彼が、町田くんと出会うことによって変わっていく。そこには「人は何歳になっても変われる」という意味も込められているんです。一方で吉高の上司を演じた日野(佐藤浩市)は、いろいろなことを見てしまって忸怩たる思いもたくさんしてきた『大人の世界』に生きる人なんですよね。吉高が『町田くんの世界』に行くのか、『大人の世界』に留まるのか、そういう見方も出来ますよね。

――映像的な注目ポイントは?

北島:プールのシーンが何度か出てくると思いますが、あれは『猪原さんの世界』なんです。彼女は最初人間嫌いで心を閉ざしています。だからあのプールは立ち入り禁止と書いてあるんですよ。その立ち入り禁止のなかに入っていくのが町田くん。彼女の心のなかに入り込んでいくわけです。あとは保健室で怪我をした町田くんの為に、猪原さんが自分のハンカチを使って止血するシーンがあります。その後、保健室を出ていった猪原さんを必死に追いかけていって「洗って帰すね、待っていて」と言いますよね。洗うというのはハンカチのことを言っているのですが、英語の字幕では"ウォッシュ"ではなく"クリーン"にしているんです。つまり、あれは猪原さんの心を表しています。だから彼女は日本から離れることを決意したとき、ハンカチを荷詰めの段ボールの奥にしまってしまうんです。

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映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)
(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会


――土手のシーンも印象的です。

北島:もう一つの『猪原さんの世界』が土手です。プールと同様に映画では何度か土手のシーンがでてきます。最初の土手のシーンでは、風船を手から放してしまった見ず知らずの男の子の為に、風船をとってあげようとして町田くんが一生懸命に風船を追いかけてきます。風船はやがて土手の水門まで飛ばされて、そこでようやく町田くんが風船をつかみ取る。そしてその瞬間に土手の水門が開きます。水門が開き、町田くんが飛び込んでくる。そこから彼女の心が変わっていくんです。

――町田くんの映像的な変化は?

北島:町田くんのある種の神秘性、まあ「キリストみたい」という言葉もありますが、彼はこの世の全部を愛していたんだけれども、一人の人を好きだ、と気づきはじめた瞬間が、お父さんとの会話なんです。お父さんの町田あゆたとの会話で「分からないことがあるから、この世界は素晴らしい。わからないからこそ、目をそらさずにしっかり向き合わなきゃいけない。」という言葉をもらいます。そこのシーンのあとで明確に変わっているのが、町田くんが汗をかくか、かかないかという部分なんです。それまで町田くんは、どれだけ動いても汗をかかない。でもお父さんとの会話のあとは、町田くんは汗をかき始める。つまり、彼は人間らしくなるんです。そのへんも見ていてほしいです。

あとは最後、猪原さんの世界(学校のプール)にいろいろな人が入り込んできます。最初にあの世界に気づくのは外から覗いている前田敦子さん演じる、栄りらなんです。あれもトイレで二人で会話をしたことによって猪原さんのことを認識することができたわけです。さらに太賀さん演じる、西野が「好きだー」って言ってプールに入ってきて、その次に、高畑充希さん演じる、さくらも入ってくる。猪原さんはまわりに無視され続けていて、彼女もまわりから目を背けていたのですが、猪原さんへの意識が働いた瞬間に彼女の心のなかに入ってくるわけです。そういう細かい一つ一つのシーンに意味があって、みなまでいうとつまらなくなってしまいますが、この映画はいろいろな仕掛けがあるので、隅々まで楽しんでもらいたいです。

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企画・プロデュースを務めた北島直明氏 映画『町田くんの世界』(2019年6月7日公開)


――町田くんと吉高がバスで邂逅するシーンにも深い意味が?

北島:町田くんと吉高は、対照的な人物として描かれています。二人とも眼鏡をかけているんですけど、町田くんは白っぽい服を着ていることに対して、吉高は黒っぽい服を着ています。町田くんの世界と真逆の世界にいる、ブラック町田みたいな。劇中で二人がバスから降りてきて邂逅するシーンでは、二人の間に黒い境界線が引かれています。吉高は、境界線を越えて、町田くんの世界を垣間見るわけです。そこから吉高がどんどん変わっていって。町田くんと会話したことで自分の生活を見つめなおします。人は何歳でも変われるんだって、感じてもらえたら嬉しいですね。

――何度観ても気づきがある作品ですね。
北島:細かい一つ一つのシーンに意味があります。映画ってそういうところを楽しむものでもあると思うんです。劇場では一時停止ができない。だからこそ観に行ったあと「あのシーンってどんな意味だと思った?」というような会話ができる。その意味でデートムービーにもなるし、フレンドムービーにも、ファミリームービーにもなる映画だと思います。

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(取材・文・撮影:磯部正和)
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北島直明(きたじま・なおあき)
1980年4月25日生まれ、徳島県出身。映画プロデューサー。『藁の楯』(13年)』でプロデューサーデビュー。その後、『オオカミ少女と黒王子』(16年)、『ちはやふる』シリーズ、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(17年)、『50回目のファーストキス』(18年)、『キングダム』(19年)など多数の作品を手掛ける。座右の銘は「One Chance One Make」。