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5月に発売となった著書「鬼弁」が人気を博し、売り切れ店も続出して話題のOAU・TOSHI-LOW。新曲「帰り道」と「Where have you gone」もリリースとなるタイミングで、BRAHMANと並行してOAUとしても音楽活動を展開してきた彼に、この15年あまりのことを振り返りつつ、新曲に込めた表現について話してもらった。

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OAU・TOSHI-LOW、新曲『帰り道』『Where have you gone』をリリース


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■弁当の肝は、立体と断面のバランス

--TOSHI-LOWさんが息子さんに向け小学校6年間にわたり作ったお弁当を収録した著書「鬼弁」が話題ですね。私が購入した書店でもOAUの新曲「帰り道」が主題歌になっているドラマ「きのう何食べた?」の公式ガイドレシピ本と並んで置いてありました。

この本についての取材も受けて、出版業界の方々からもこれがどれだけすごい反響なのかというのを説明いただいていますよ。だって"今晩のおかず"とか"10分で作り置き"みたいな並びの真ん中にいるじゃないですか、この本が......(笑)。そういう本屋さんに並んでいる様子を編集担当が送ってきてくれるのを見て「ゾッとする......」と思って。びっくりしますよ。でもこのまえサイン会をやったら会場の100人のなかに、バンドマンとしての俺のことを全く知らなかったけれどこの「鬼弁」を買って読んで来てくれたって女性が2人ほどいて。何かすごいですね(笑)。

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OAU・TOSHI-LOW、新曲『帰り道』『Where have you gone』をリリース


--ドラマ「きのう何食べた?」も男が男につくる料理に女性視聴者が見とれている、という感じです。

ドラマ、見ていますよ。でもシロさんみたいにああやって料理できるのと、こういう弁当作るのって似ているようで全然違うでしょ(笑)。あと、ただ単に「週一でスパイスカレー煮込むから!」みたいなのでもない。うちの嫁(女優のりょうさん)も出産後すぐに仕事復帰していたし、俺は子どもの頃からそもそも歳の離れた弟がいたんで、結構小さい子の面倒みるのがきらいじゃなかったし、育児は普通にやっていました。その延長線上での弁当作り。

--ちなみに、OAU/BRAHMANのメンバーであるRONZIさんは得意のラーメンをフェスなどでもふるまったりされますが、TOSHI-LOWさんは家族以外の方にお弁当作ろうと思いませんか?この本のなかでも「食べてみたい!」というようなコメントをされている方も多くいらっしゃいましたが。

うーん、作る理由が見当たらないですね(笑)。なんですかねえ、ふるまうためにやっているわけじゃないのでね。弁当の場合、半分は"やらなきゃいけないから"、でもそれだけでは続けられないので、何かもう半分は自分の中で面白みを見つけようとしていただけ。ユーモア、とかね。でも基本的に弁当は"埋まればいい"んです。なんでも。持って行って動かない程度に食べ物が入ればいい。

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OAU・TOSHI-LOW、新曲『帰り道』『Where have you gone』をリリース


--本に収録されているお弁当でも、巻いていたりギュッとちくわに詰めていたりとかっていうのも密度を高めるためですか?

いや、あれは断面。開けた時の断面の楽しみですよ。弁当のキーは立体と断面だと思ってるので。あとね、あんまり"断面だ"と思い込み過ぎちゃっても弁当は面白くないです。真上から見た時にぴったり区切りすぎて、アメリカの州の地図みたいにならないように。「直線は消さないと面白くない!」というのが持論です。
あとは、なんといっても「どうやったら残されないようにできるか」。だから、大人に作るのと子どもに作るものは別だし、そう考えると小学校って長くて、6歳につくるのと12歳につくるものは全然違う。かたや幼稚園生のような子どもが食べるもので、かたやほぼ大人みたいな中学生向け、と。そうすると単純に彩りやキャラ性が必要なときもあれば素材のほうにリクエストをされる時も出てきますよね。

--中学生になってからも作られてるんですよね。何か変化はありますか?

ちょうど今日は俺の番だったので作りました。あんまりもう小細工はしないけど、やっぱりきれいに作ってあげようとは思うかな。まあでも息子なんで、その分は気楽かもしれない。ある意味「男メシ!!」みたいなのでもいいから。もしこれがお嬢さんに向けてだったら違うんじゃないかな。ニンニクチップとか入れねえだろうって(笑)。飲み屋でつくってもらってきたアテばっかり入ってたら嫌われるでしょ。

■OAUによってたどり着けた"もう180度片側"の意味

--「鬼弁」ではご長男との6年間をまとめられたわけですけれども、ちょうどOAUを始められたのはその息子さんが生まれた頃でもありますよね。また、東日本大震災以降のTOSHI-LOWさんは、それまでからは180度転換し、MCでもたくさん話されるようになりました。そこにはハードコアのBRAHMANとは別軸としてできたOAUや、NEW ACOUSTIC CAMPというキャンプフェスの場をスタートさせたこと、そして息子さんとのお弁当を通じてのコミュニケーションも影響していたのではないかなと、今になって受け手としてもよくわかりました。

OAUを始めたのと長男が生まれた頃、ちょっとずれているけれどでも大体、そうですね、そのくらいからです。今の話に少し補足するとすれば、これは"変わった"のではなく、反対側のもう180度にあったものなんだよ、ということ。結局、球面で見れば上も下も横も全部あって、BRAHMANからみて軸の反対側にあった自分のものだとは思うんですよ。2005年のOAUが始まる頃と子どもが生まれる頃ってたぶん、自分の中の変化に耐えられなくなってきた時期なんだろうな、と。それまでは「俺はこういう人間だ!」という180度の片側だけを見せていればよかったのに、どうしてもそれ以外から漏れてくる、自分の隠している部分だとか。その時はそれを弱さだと思っていたけれど、でも新しく自分にも家族ができたり子どもができたりという変化を体験するうえで、実はOAUのような音楽性が必要だったし、今考えれば、すごく説明がつきます。

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--OAUも15年になろうとしている今、振り返ってみるとやっとわかることというか。

OAUをやり始めた当初は「おまえらがそんなのやる必要ないでしょ」って感じる人が多かったと思うし、批判する人のほうが多かった。もちろんそれはアコースティック音楽に対してうちのメンバーも適応できていないからっていうのもありました。でも、必要だったんですよ。OAUのこの15年って、たぶん"父親になっていく"ことに近い作業だった気がするので。OAUが始まった頃に、マーティンの家もうちも子どもが生まれて、当たり前だけど、自分自身がまだ若さを引きずりながらも、大人に、親になっていくという変革期をともに過ごした15年間だったので。途中からは、自分たちの中から出てくるワード(言葉)も変わってきたし「これ、格好つけてたらこの曲に乗らないな」というのもよくわかってきた。でもそれが一体なんなのか、当時はよくわからず説明できなかった。でも結局、「鬼弁」でも最後に書いたけれど、これが父性であるし、男の自分が言うのはおかしいのかもしれないけど、母性でもあるなんじゃないか、って。もしOAUがなかったとしたら、そういう感覚にはとっても気づきにくかったかもしれない。

--そんな今、OAUでリリースする新曲「帰り道」は、すごくプリミティブで、童謡のような優しさも感じる曲ですね。MVも、飾らない皆さんの普段の表情に、すごく親しみが湧きます。

そういうプリミティブに見えている部分というのはある意味で、とても普遍。
深いし、でもとてもわかりやすい言葉で、今回は構成しています。MVに関しては「きのう何食べた?」のオープニングを逆に俺たちがはめさせてもらってる形ですけど、要はね、この曲がそんなにはねるなんて誰も思ってないから、MVを作る時間も予算も当初は割いていなくて。

--そうなんですか(笑)?

うん。だってそもそも曲も、ドラマのオープニングに合わせてまずは1分ぶんをぴったりに作っているけど、そこからどうなるかはドラマのために用意した段階では見えていなくて。そこからしっかり1曲にして、レコーディングして、そうしたらドラマも始まって「いや、これMVないとヤバいかもよ?」みたいな雰囲気になってきて(笑)。だからこれ、1日でやったんですよ。スタジオも予約できないしどうしようか、「え、じゃあ友達の店で、ワンカメでやったらいいんじゃん?」て。誰がどこに配置されたら面白いかなっていうのを前日に話しておいて、それを次の日に友達がやっている代々木の「Little Nap COFFEE ROASTERS」を使わせてもらって、1日で撮影したっていう。

■細美武士の声への信頼

--なんともフレキシブル、さすがのスピート感です。ちなみに今回は「帰り道」と同時に「Where have you gone」も配信リリースになりますが、こちらでは盟友・細美武士さんがご一緒されていますね。前回BRAHMANでのゲストボーカルに細美さんが参加された際も映画(『あゝ、荒野』)の主題歌でした。

映画『新聞記者』の主題歌にもなってます。曲を制作している最中に、映画のお話をいただいたので提供し、世界観もぴったり合った、という。細美武士に歌ってもらったのと今回も映画に使ってもらったのは、たまたま、ですね。

--彩りとしてやはり細美さんの声に絶対的な信頼感がある、ということなのかなとも思ったりしたんです。

コーラス入れを考えた時に俺では出ないキーだったし、誰か思うとすれば、ピンときたのが彼で。俺もなんだけど、マーティン自身も細美武士とは交流があるので。そういう意味でいえば、信頼があるってことですね。友達としてもそうだけど、ひとりの歌い手として、「あの人のこの声がほしいんだよね」っていう。マーティンが「あの声をここに入れてほしいんだよ」ってすごく言ってたから「やってくれたらいいねえ」と話していたら、二つ返事で「やるよ」って。めっちゃ何回も歌わされてましたけど(笑)、かわいそうに。俺が「いいんじゃないの~ 今のよかったと思うよ~?」って小声で言っても「今のができたならもうちょっとこれができると思うんだよねー」とかって欲が出ちゃって。でもその何回もテイクしてもらった甲斐(かい)はあると思う、素晴らしい歌声ですね。もちろん自分たちの努力でできることだったら工夫はしますけども、自分たちにないものはもうこうやって他の人たちにも頼って。頼るのも、今は逃げているとは思わないし。

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OAU・TOSHI-LOW、新曲『帰り道』『Where have you gone』をリリース


--先ほどのMVを1日で撮るとなったときに使わせてもらえるような信頼関係のある友達のお店があったりとか。そういうことも震災以降とかにできた関係性や信頼感だったりがもとになっているのではないかと。

デカいですよねえ。さっき話した、自分のなかの180度反対側が出ることによって、自分の反対側があることも知ってくれている人との付き合いがさらにオープンにできたり、仲良くできたり。「そういう部分見たくなかった」みたいなこと言って離れていったファンの人とかもいるけど、でもね、今、楽っす。(笑)自分のふざけてるところ、おもしろいところ、まじめなところもあるしってね。できないこともあるし、というのを出しちゃったほうがね。人間的に360度のオープンのほうが楽しいなっていう。

--そもそも10年前で考えたら、TOSHI-LOWさんがお弁当の本を出しているなんて、誰も、ご本人すらも想像しえなかったと思います。

でもそれも"変わった"のか"もともとあったものを見せた"のか、ということでしかなくて。まあそれを変化と呼ぶとは思うけど、物質自体が違うものになったのではなく、そういう一面もあったということに、より自分が素直になった、という。でもたとえば自分がバンドというものを始めてからの約30年をBRAHMANだけでやっていたら「帰り道」みたいなことはきっと書かなかったと思うんです。OAUでは、ひらがなでどれだけ伝わるかということをここ何年かはずっとチャレンジしている。要はマーティンとしゃべる時って、漢字の会話をしないんですよ。たとえば「認識するのは」じゃなく「わかるのは」とかって言い直すことが多い。マーティンも日本語で歌うしね、そういう言い換えをひとつずつ歌詞でもやってみているんです。

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--BRAHMANでもOAUでも、英詞より日本語へ比重が変わってきているようにも感じますね。

次男が、小さい時からずっと絵本を読んでもらうのが好きな子だったので、自分も読み聞かせをしていて。りょうちゃんが、被災地で自分なりにできることあるかなあって小学校とかで読み聞かせをしたことから、家に絵本がどんどんたまっていってたのも大きく影響していますね。いい絵本て、やっぱり言葉がよくて。オリジナリティはしっかりあるんだけど、むずかしい言い方はしていない。すごく精巧に言葉が書いてあって。それを俺も読み聞かせのなかで自分自身の中にも入れていたんだろうなあって思います。

--すてきな絵本たちが家にたくさんあったんですね!

後ろのクレジットを見ると"第八十何版"!とか印刷されていて「うおお」となったりして(笑)。でも時代を超えて読み継がれる理由もよくわかるっていう。
「100万回生きたねこ」とかね。今読んでも泣きますよ。あと「小さいのが大きくて、大きいのが小さかったら」っていう絵本とかも好きでした。わかる言葉で意味がしっかり伝わるし、しかも全然子どもっぽくないんですよね、全部。

--絵本のお話まで伺えてうれしかったです、ありがとうございます。最後に、OAU15年目、NAC10周年ということですけども意気込みをお聞かせください。

OAUではアルバム録りが終わっているので、それが楽しみです。15年かかりましたけど、結成した当時、大批判にあって、でもじゃあなんでこれをやってるんだろうと、みんなの頭のなかにあった"理由"が、ちゃんとできたかもって、メンバーみんなが思っているはず。こういうものが鳴らしたくて、こうやって日本語と英語が入って、民族や世界各地の地方のことが渦巻いて、それをアコースティックでやってみたいという。次のアルバムはOAUの完成形の一個だと思います。ニューアコは今年で10年、か。閉鎖的といったら変だけど、中に入ったら自由、でも中に来るまでをしっかりとしているようなフェスにしたいというのを10年間でちょっとずつ広げて。アーティスト主導で楽しませるものではなく、来る人たちによってできあがるみんなの生活の共同の場みたいなもの。民度も来る人にかかっているということを伝え続けてきました。

でも一番最初に、アーティスト主導でいろいろやらないって決めたんで。来る人たちによってできあがる、というもの。逆にいうと、民度が下がったらやめちゃえばいいんです。そういう普通のことをちょっとずつ、やってきた10年ですね。

--最後に、このインタビューでは座右の銘を聞いているのですが。今、TOSHI-LOWさんが大事にされているお言葉をお聞かせいただけますか。

鬼弁でも何度も登場しますけど「いってらっしゃい」ですかね。いってらっしゃいって、本当はさよならの言葉なのかもしれないって。天国に送るときも「いってらっしゃい」だとしっくりくる。さよならの一種なのかなあって。でもだからこそ、それでなお、もう一度帰ってくることができたら本当に幸せなことなんだよね、という。最近そういうふうに認識しています。

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■プロフィール
OAU
ハードコア・パンク・バンドBRAHMANの4人に、バイオリニストのMARTINとパーカッショニストKAKUEIから成るアコースティック・バンド。6月26日にNew Single「帰り道/Where have you gone」をリリース。
今年9月には結成15年目のスタートを控え、さらに、主催キャンプフェス「New Acoustic Camp」も10年目の開催を迎えるなど大きな節目が待っている。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

(取材・文/鈴木絵美里 カメラマン/倉井陽祐)

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