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世界的ピアニストとして活躍する上原ひろみが"色彩"をテーマにした10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』をリリースした。前回のソロが20代の彼女だとしたら今作は30代を過ごしてきた現在の彼女を楽曲として昇華させたもの。ピアノとの距離が近くなったことにより、表現できる音の色が増えたという今作には白と黒の鍵盤が紡ぐ魔法のように自由な世界が広がっている。

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上原ひろみ 10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』をリリース


上原ひろみ『Specrum(Live)』GYAO!にて配信中>>


■ソロは自分自身との勝負。挑戦しがいがある。

――まず10 年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』の制作に取りかかるキッカケになった出来事というのは?

上原ひろみ(以下上原):ピアノと自分だけというまっさらな状態のアルバムを少なくとも10年に1枚は作っていきたいと思っているので、前回『Place to Be』(2009年)をリリースしたときから、10年以内にまたソロ・ピアノ作品を絶対に作ろうと心に決めていました。

――その10年というタームにはなにか理由があるんですか?

上原:『Place to Be』のときは20代の自分の音を残したかったのですが、今作では30代の音を残そうと思いました。

――そうなんですね。上原さんはチック・コリアであったり、スタンリー・クラークと共演、アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップスとのザ・トリオ・プロジェクト、矢野顕子さんやエドマール・カスタネーダとのコラボなどさまざまな作品をリリースしていますが、ソロ制作とどんな違いや刺激があるのでしょうか?

上原:バンドだったり、共演相手がいるときは作品を一緒に作り上げている感覚なので音楽を通しての対話というか、パスまわしの楽しさがあります。ソロの場合は自分1人しかいないので、自由度が大きい分、すべてが自分次第の勝負という意味で挑戦のしがいがありますね。

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上原ひろみ 10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』をリリース



――ミュージシャンとのキャッチボールも刺激的だけれど、ソロでは自分とひたすら向かい合うやりがいがあるんですね。

上原:はい。ソロは自分自身との対話でもあります。ピアノだけで世界を作り上げていくので。

――『Spectrum』のピアノの多彩な表情、彩りのある音に魅了されました。"色彩"をテーマに作られたアルバムということですが、ピアノを弾く上で昔から意識されていることはなんですか?

上原:ええ。表現力が深まるということは音色が多くなることでもあると思っているんです。自分が持っているパレットの絵の具が毎年、増えていくようなイメージです。10年前よりピアノと近づけたと思っているので、今作は"色"をテーマに曲を書こうと思いました。

――色が増えることは人生経験を積むことと関係していますか?

上原:人生経験もそうですし、ピアノと真摯(しんし)に向かい合う時間を過ごすことだったり、積み重ねですね。10代の頃から憧れているピアニストの演奏を聴いて音色が豊かだなと思っていたんです。強い音や弱い音の中に何色ものグラデーションがあることを感じていました。

■ピアノから出る色彩のグラデーションも表現できたアルバム

――実際、アルバムは1曲目の「カレイドスコープ」からタイトル通り、万華鏡のように見える世界がくるくる変わっていきます。ジャズやロックのカバーをインプロヴィゼーションをまじえて演奏した大作「ラプソディ・イン・ヴァリアス・シェイズ・オブ・ブルー」にも圧倒されました。

上原:「ラプソディ・イン・ヴァリアス・シェイズ・オブ・ブルー」はとにかく長い曲(22分45秒)なので、すごくエネルギーを必要とするレコーディングでした。「ラブソディー・イン・ブルー」をベースに、ジョン・コルトレーンの「ブルー・トレイン」、ザ・フーの「ビハインド・ブルー・アイズ」が盛り込まれているんですが、曲が切り替わるのではなく青の濃淡をグラデーションで自然に表現できたと実感しています。


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上原ひろみ 10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』をリリース



――ピアノだけなのにまるでバンドで演奏しているように響く「イエロー・ワーリッツァー・ブルース」もカッコいい。

上原:ピアノだけでもいろいろな音を出すことができるんですよね。「ラブソディー・イン・ブルー」ではオーケストラを表現していて、「イエロー・ワーリッツァー・ブルース」はベーシストがいてドラマーがいるかのようなイメージ。
まるでセッションしているような雰囲気が出せたと思います。

――喜劇王のチャップリンに捧(ささ)げた「MR. C.C. 」も躍動感があってグルーヴィーで楽しめました。

上原:ありがとうございます。彼の映画はモノクロなのに色彩豊かというか、チャップリンの動きからいろいろな色が見えてくるんです。ピアノの鍵盤も白黒なのにカラフルな色の音が出るので共通点を見いだして書いた曲です。曲が完成してからも映画の映像に合わせて聴いたりしていました。雪景色を見ながら書いた「ホワイトアウト」という曲や、奇跡をつかみに行くために戦う場面と奇跡が起こる瞬間のコントラストを表現した「ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン」 だったり、オリジナルは全曲、いまの自分だから書けた曲だと感じています。

――それと今作はオーケストラが使用する大きなスタジオ(ルーカス・フィルムが所有するスカイウォーカー・サウンド)でレコーディングされたんですよね?

上原:はい。音響が素晴らしいスタジオで音が天井から降ってくる感覚で、コンサートホールでレコーディングしているのに限りなく近い環境でした。『スター・ウォーズ』など、自分がすごく好きな映画の音楽が録音された場所だということもうれしかったですね。

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上原ひろみ 10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム『Spectrum』をリリース



――今作をひっさげ11月から始まる日本ツアーはどんな内容になりそうですか?

上原:ツアーで繰り返し曲を弾いていると、「こんな一面があったんだ」、「こんなふうにもなるんだ」ってどんどん曲が変化して、知らなかった可能性に気づいたりします。ピアノのソロ・コンサートというとかまえてしまう方もいらっしゃるかもしれないですが、私自身、当日にならないとどういう音が生まれるのかわからないのが楽しみでもあるし、曲の長さもふくめ、いろいろなことがライブでは日々変わっていくので、一緒に宝探しに行くような気持ちで楽しんでいただけたらと思います。

――ロックフェスで上原さんを見た方もいらっしゃるでしょうしね。

上原:そうですね。それとクラシックホールの音響の良さを体感していただきたいし、ピアノという楽器の細部まで伝わる環境だと思うので「こんな音も出るんだ」とかピアノの魅力と可能性を感じていただけたらうれしいですね。

――最後にピアノは上原さんの人生にどんな彩りを与えてくれていますか?

上原:ピアノはいろんな出会いをもたらせてくれたもの。私にとって人や場所とつながる架け橋だと思っています。

(取材・文/山本弘子)
(写真/Y.Saijo)

●上原ひろみ
1979 年静岡県浜松市生まれ。6 歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。17 歳の時にチック・コリアと共演。 1999 年にボストンのバークリー音楽院に入学。在学中の2003年に『Another Mind』で世界デビューを果たす。2011 年には 2 作連続参加となったスタンリー・クラークとのプロジェクト作 『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング上原ひろみ』で第53回グラミー賞において「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞。2014年には全国ツアーで4万人を動員、翌年にはフジロックフェスティバルに出演。上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス名義のアルバム『SPARK』(2016年)は全米ジャズ・チャートの1 位を記録した。座右の銘は"努力、根性、気合"。


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