"逆転"と"肩透かし"の連続が大泉洋『ノーサイド・ゲーム』の醍醐味(だいごみ)

2019/9/19 13:56

池井戸潤原作のTBS日曜劇場として6作目となった大泉洋主演『ノーサイド・ゲーム』。
これまで通り、小が大に挑み、最後は巨悪を倒す物語だったが、ラグビーをテーマにした今回のドラマは、最終回の演出が少し違っていた。
"逆転"と"肩透かし"が連続し、見る者を飽きさせない工夫満載だったのである。

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『ノーサイド・ゲーム』主演の大泉洋


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■前半の逆転劇

物語は、左遷されたエリート社員の君嶋(大泉洋)と、低迷するラグビーチーム・アストロズの、再起をかけた逆転劇だ。
紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、ともに最後の数秒で辛うじて絶体絶命をひっくり返している。

ただしこの結末は、視聴者の大半が予想していた。
それでも最終回を、全く飽きずに手に汗握り、しかも感動の渦に身を委ねられたのは、意外な展開の連続という演出手腕だった。

例えばトキワ自動車の取締役会。
それまで味方と思っていた脇坂常務が、"蹴球協会の方針が変わらない以上、14億円は出せない"と、ラグビー部の予算削減を迫った。
ところが並行して開催されていた蹴球協会の理事会で、富永会長(橋幸夫)が緊急動議で解任された。君嶋の努力が、ぎりぎりのところで実を結んだのである。

これを受け、タッチの差で脇坂案は却下された。
しかも引き続き君嶋により不正が暴かれ、ラグビー部を追い詰めていた脇坂を、逆に解任に持ち込むことに成功した。
小が巨悪を倒した瞬間だった。

■こまかな"肩透かし"

しかし、これは最終回前半の山場に過ぎない。一番の山場は、アストロズとサイクロンズの全勝対決。
ところが物語はその前に、君嶋と妻(松たか子)のやりとりが入る。
ラグビーの良さを理解しない妻に、選手が懸命に戦う姿は言葉にできないくらい美しいと、君嶋は遠慮がちに説得を試みる。
「だから見に来てくんないか。席は用意するからさぁ」
ところが真希ちゃんは「却下!」。
「もう自分で買っちゃったもん」

■最後の逆転劇

そして優勝決定戦。
君嶋とアストロズ部員との誓い、「優勝」を果たす試合が始まった。

ところが前半は、一方的な展開。アストロズから移籍した里村(佳久創)が、想定外の攻撃参加をしたことで、いくつもトライを決められてしまった。

一方、アストロズの司令塔・七尾(眞栄田郷敦)は、研究し尽されていた。
得意のドロップボール、パスのタイミング、そしてステップのコースは全て把握され、状況を打開できないでいた。
さらに皆で編み出したノールック・パスを逆に里村に決められ、26対6と大差を付けられてしまった。
万事休すだ。

窮余の一策として、まだ負傷が癒えない浜畑(広瀬俊朗)の投入が決断された。
交代を覚悟し顔を曇らせる七尾。ところが柴門監督(大谷亮平)は、七尾と浜畑のダブル・スタンドオフを選んでいた。

いったんボールを浜畑に出し、後方に下がった七尾にキックパス。そこからドロップゴールを立て続けに決め、26対15まで挽回した。
「点差を2トライ圏内にもっていけば、仲間に大きな力を与えられる」という浜畑。この試合が現役最後と決めた彼の必勝策だった。

また七尾にドロップゴールを決めさせると見せかけ、浜畑はディフェンスを引き付け、スペースのできた味方へパスすることでトライをもぎ取った。
佐々のフェイントからの前方へのキックパスも飛び出す。岸和田(高橋光臣)も、里村のタックルを跳ね返してのトライを決める。

熱戦の末、スコアは1トライ差へ。そして残り1プレイを知らせるホーンが鳴り響いた。
パスによるアストロズの最後の攻撃。ところがパスを受けた浜畑を激しいタックルが襲い、負傷していた足を悪化させてしまった。そこに里村が襲い掛かり、浜畑はタッチラインを割る寸前にボールを七尾に託した。
そしてラストチャンスで、1点差の逆転が成立した。

■さまざまなノーサイド

ノーサイドの後は、通路を行く選手たちがお互いの健闘をたたえた。
ただし最大のノーサイドは、柴門とサイクロンズ津田(渡辺裕之)との間だった。
名門大学を3連覇に導く手腕を持ちながら、津田に更迭された過去を持つ柴門。その津田が「私の負けだ」と認め、握手を求めて来たのである。

君嶋夫妻にもノーサイドがあった。
「どうだった、ラグビー?」と問う君嶋に、真希ちゃんはしかめっ面で「そうねぇ~」とためを作り、「最高!」と満面の笑みを見せた。
そして、これまでずっと拒否してきたハグとなった。

さらに最後の最後にメッセージ。
かつて「ラグビーはこの会社や日本に必要だろうか」と問うた天敵・滝川(上川隆也)と君嶋との会話だ。
「理不尽がまかり通る時代になっています」
「ノーサイドという精神は日本だけでしか通用しない、日本ラグビーのおとぎ話かもしれない。でも今この世界だからこそ、必要なんだと私は思います」

ラグビーワールドカップ開催の直前、ノーサイドという気高い精神を、一級の娯楽の中で、自然に伝えたドラマの完成度に脱帽したい。

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文・鈴木祐司次世代メディア研究所