ゴツイがすがすがしい男たちに女神はほほ笑む~『情熱大陸』リーチマイケル~

2019/9/27 11:50

ラグビー日本代表は28日(土)、優勝候補のアイルランドと戦う。

前回の2015年大会では、3勝1敗と健闘しながら決勝トーナメントに進めなかった日本。その時からキャプテンを務めるリーチマイケルは、リベンジをかならず果たすと誓っている。

日本との絆を大切するが自分には厳しいリーチの姿勢を見ると、分厚い壁は突破される予感に満ちている。

サムネイル
『情熱大陸』ラグビー日本代表・リーチマイケル


勝利を予感させるリーチと日本の絆>>

■日本との絆

1988年生まれのリーチは、ニュージーランド出身の30歳。
父はニュージーランド、母はフィジー出身。5歳でラグビーを始め、15歳で来日、ラグビーの強豪高校に留学した。適当に済ませない日本人の勤勉さに驚き、謙虚さや相手を敬う姿勢に学んだという。

ところが部活では、厳しい練習についていくのがやっとだった。
「最初の頃は、学校に申し訳なかった。細くて弱かったから。本当、期待外れ」と告白する。

ただし当時の監督は、彼の努力を買っていた。
「相手に『あの外国人たいしたことない』と言われて、彼はショックを受けていた。一人で練習終わった後もタイヤ引きや筋トレをやり、食事も必死で食べて体を大きくしていた」

実はリーチと日本との絆は、この頃に転機を迎えた。
故郷の実家が火事で全焼したが、監督や仲間が募金を集めてくれ、家族が救われたのである。
「恩返ししたい。家が火事になったし、皆にお世話になった」

強くなったリーチは大学へ進み、08年に日本代表に選出された。卒業後は実業団でプレイし、11年開催のワールドカップで代表に選出された。
さらに2013年に日本国籍を取得、15年のワールドカップでは日本代表キャプテンだった。

■恩返しの第一歩

かねがねリーチは、「日本人のメンタルの強さ、ラグビーの強さを証明したい」と考えていた。
実は2011年まで、日本代表のワールドカップ戦績は1勝21敗2分。海外と比べると、日本ではラグビー選手はリスペクトされてない。それを変えたかったのである。

第一歩が15年のワールドカップロンドン大会。
優勝候補の南アフリカに34-32で逆転勝ちし、史上最大の番狂わせを演じて見せた。「選手全員がいろいろなことを犠牲にし、4年間ハードなトレーニングをしてきた結果」、リーチの信念が立証されたのである。

ところがチームは3勝1敗という過去最高の成績を残したが、僅差で1次リーグを突破できなかった。
それでも次を見据えてリーチは仲間に言った。
「自分のチームに戻ったら、仲間にワールドカップの様子を伝えて欲しい。皆がこれからワールドカップをめざせるように」

そして日本で開催されるワールドカップ。
今回もキャプテンを務めるが、「ベスト8、またはそれ以上を目指す。そのために最強のキャプテンになる」と言い切った。

■リーチの覚悟

リーチはかつて、母国ニュージーランドからオファーを受けたことがある。ところが誘いを断った。
日本との絆が特別と感じていたからだ。

太平洋戦争中、祖父はフィジーの軍人だった。
そしてパプアニューギニアの森で日本兵と出くわす経験を持つ。お互い銃を向け合ったが、祖父は「おまえは向こう行け」「俺はこっち行くから」と体で表現した。お互いに意思が通じたようで、殺さずに別々に離れて行った。
「そこから日本とつながっている。不思議なもので、今は日本代表のキャプテン」

深い縁で日本とつながるリーチだが、実は大事なワールドカップ日本大会前に苦境に陥っていた。
今年3月、300kgのバーベルを持ち上げ、恥骨痛を発症し、激しい練習ができなかった。これまでの8年間は率先して体を張り、背中を見せることで、皆を引っ張ってきた。ところが叶(かな)わなかった。
「こういうよくわからないけがはメンタルに来る」
けがは治りかけてはぶり返し、結局リハビリに3カ月を要した。

復帰後は、周囲が心配するほどハードな練習に励むキャプテンに戻った。
「厳しさを乗り越え、過ごした日々が多いほど、チームの絆は強くなる」という信念がそうさせていた。

■勝利の女神がほほ笑む!?

ワールドカップでのベスト8進出の他に、実はリーチには、もう一つの計画がある。モンゴルの少年を日本に招くことだ。

自分は日本に来てチャンスをつかんだ。今度はモンゴルの少年に、同じ道を用意したい。
「これまでの15年はちょっとのチャンスで全部変わった。日本に行くというチャンスだけで......」
そう受け止めているリーチは、バトンを次の世代につなげようとしている。

ロシアに30対10で快勝した開幕戦。
リーチが招待したその少年が、スタンドにいた。
「とても満たされた気分で感動しました。応援していた日本が勝って、うれしいです」
そう笑顔を見せる少年に、リーチがほれ込んだのは手の大きさ。日本の高校進学が決まっている。

少年の大きな手が夢をつかむ前に、まずは28日のアイルランド戦。
"桜の戦士"たちは4年前同様のアップセット(番狂わせ)を起こさなければならない。でもリーチと日本との絆や覚悟、そして次世代への思いを見ると、勝利の女神のほほ笑みが予感される。

ラグビーの奥深さを良く描いたドキュメンタリーの佳作と言えよう。

勝利を予感させるリーチと日本の絆>>

文・鈴木祐司 次世代メディア研究所