中高生と会社員を癒やした黒木華~『凪のお暇』から得る解放感~

2019/9/30 11:31

最終回後、SNSでロスのつぶやきが多く書かれた黒木華主演『凪のお暇』。
視聴率は10%前後で華々しいとは言えないが、多くの視聴者の心を動かしたドラマだった。

サムネイル
『凪のお暇』個人視聴率推移


凪の別れの言葉が秀逸>>

■同調圧力からの自由

ドラマのテーマは"同調圧力"。
組織や集団において、少数者に対して周囲と同じように考え行動するような、暗黙の強制だ。

第3話では、群れからはぐれるイワシが出てきた。
凪(黒木華)「がっ、がんばって! 落ち着いて。きっと、まだすぐ戻れるから」
流れに逆らうイワシを凪は応援した。縮れ毛なのにストレートのサラサラヘアを装い、会社でも空気ばかりを読んでいたが思うように振る舞えないOLだった彼女は、皆と逆を行くイワシに憧れた。

一方、素直に自分を出せない慎二(高橋一生)は、そんなイワシをバカにした。
「何はぐれてんだ、あのイワシ。空気読めよな(笑)」
ところが、幼い頃から空気を読み、理想の家族ショーを演じて来た慎二は、本音を凪に語っていなかった。
「俺、そいつに憧れた。どんどんはぐれろ、勝手にどこまでも行っちまえっ」


■共感した人々

関東5000人以上の個人視聴率を属性別に調べるスイッチ・メディア・ラボによると、職業別では会社員が最も反応した。
そして人生のライフステージ別では、小中高校生がよく見ていた。

初回を100とすると、会社員は第2話が119、第3話で152と視聴者数が急増した。
ところが組織の権力者たる経営者、自分で全てを差配する自営業者、そして家庭の中で主導権を握る主婦などは、逆に2~3話で視聴者を減らしていた。
日々の仕事や生活で、同調圧力をヒシヒシと感ずることの多い会社員だからこそ、テーマが心に響いたのだろう。

会社員より反応したのが中高生。序盤で2.5倍ほど、終盤に至っては3倍から最終回の3.5倍と、急傾斜な右肩上り曲線を描いた。

小学生も終盤で1.6~2.2倍に増えた。ところが大学生は、2話以降では初回を下回ることが頻繁にあった。大学生活では、全員が同じ授業を受ける必要がない。大学での滞在時間も、中高生と比べればずっと短い。事情が大きく異なるようだ。

会社員と小中高生がドラマによく反応したのは、同じ仲間と物理的に一緒にいる時間が長いのと、関係が濃密だからだろう。
その中でも、会社員より小中高生がより急増したのには、理由が三つほどありそうだ。
学校でのクチコミという評判の波及力。他人との距離の取り方が未熟なために、"自分事"の度合いが高かった。そして子供をスポイルしてしまう毒親がもう一つのテーマだったからだろう。

■同調圧力は家庭から

ドラマが原作の領域からはみ出した終盤で、十代は大きく反応した。
凪をめぐって慎二とゴン(中村倫也)の三角関係が転がり始めていた。ラブストーリーがひきつけた側面はもちろんある。

もう一つが、毒親からいかに自由になるかだ。
凪がそれを果たすのは、慎二の祖母の米寿祝いのパーティ。凪の母(片平なぎさ)と、慎二の両親との顔合わせが行われたが、その場で慎二の母(西田尚美)は、興信所を使って凪の家族の真実を暴いてしまった。

ところが慎二の兄・慎一(長谷川忍)が乱入し、我聞家の仮面も剥ぎ取ってしまった。
屈辱を受けた末に、我聞家もひどい状況と知った凪の母は、あざ笑いながら凪に吐き捨てた。
「さすがあなたが選んだ人ね、凪。みっともないご家族」
これ対して凪は、初めて本音を母にぶつけた。
「嫌い......。お母さんがずっと。罪悪感あおって言うこと聞かせようとするところとか、外ではいい人ぶるところとか、自分もできないようなこと私に期待するところとか、嫌い」

こうした展開を、固唾(かたず)を飲んで見入った十代が多かったが、実は視聴者数の伸び率では、女子より男子が勝っていた。
初回の絶対数が男子は女子の半分だったこともあるが、"空気を読む"同調圧力と毒親からの独立に関心を示す男子が少なくないと推察される。

■解放というカタルシス

『凪のお暇』最終回は、主人公の成長物語で締めくくられた。

生き方を変えてくれた凪にプロポーズしたゴン。ところが凪は、感謝を言葉にして断った。
「私ゴンさんからいろいろもらうんじゃなくて、おいしい空気を大好きな人たちにあげられる人になりたい」

かつてイワシの群れを見た水槽の前で、慎二にも感謝の気持ちを言葉にした。
「さまよった時はいつも慎二が助けてくれた。なのに私はずっと一緒にいたのに、慎二の思いも家族のことも何もわかってあげられてなかった。ごめん」
「好きになってくれてありがとう」
凪の未来に自分がいないことを悟った慎二は、「おまえはしっかり一人で泳いでいるよ」と凪からの卒業を受け入れた。
かくして凪もお暇から卒業することとなった。

二人の男のどちらを選ぶかという恋愛ものに終わらず、どう生きるのかの成長物語で締めくくった『凪のお暇』。
「空気は読むものではなく、吸って吐くもの」
周囲に流されずに、自らが主人公となる生き方に勇気を与え、特に解放のカタルシスを見事にシーン化した同ドラマに拍手したい。

凪の別れの言葉が秀逸>>

文・鈴木祐司 次世代メディア研究所