公務員から漁師という女性の選択~『セブンルール』高橋典子(27歳)~

2019/10/28 11:12

公務員という安定を捨て、あえて不安定な漁師の道を選んだ女性がいる。

高橋典子(27歳)。山形大学を卒業後、岩手県庁に入庁。ところが4年で退職し、大船渡市で漁師になった。
「海の女」を選んだ彼女の決意には、地域で新たな価値観を作り上げようという新たな女性の可能性を感ずる。

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『セブンルール』岩手県職員から漁師へ...故郷の漁業を盛り上げようと奮闘


女性だからこそ漁師で成功できる!?>>

■"漁師"になるまで

岩手県の内陸部・花巻市で生まれ育った高橋。
2011年、東日本大震災が発生した当時は、故郷を離れて山形県の大学で学んでいた。
「テレビで岩手の沿岸部の映像を見て衝撃を受けたことを覚えている」

卒業後は「地元の役に立ちたい」と岩手県庁に入庁。初任地の大船渡市で、大震災で壊滅的な被害を受けた綾里(りょうり)地区と出会った。
震災から立ち上がろうとする漁業関係者たちの姿を見て、「自分の人生ずーっとやっていくお仕事になったら幸せ」と思うようになった。

そこで4年間勤めた岩手県庁を退職。
水産会社で1年間漁師としての修業を積み、今年から1人で船を任されるようになった。小型漁船に乗り込み、1人で漁を続ける毎日を送っているが、そんな高橋には、漁師を一生続けるためのルールと思いがある。

■"海の女"は「休憩を取らない」

高橋のルールで、まず驚くのが仕事の仕方。
「休憩は取らない」と決め、6時間以上も一切休憩をとらずに漁を続ける。

彼女が乗り込むのは2.5tの小型漁船。
15分ほど走らせて沖合の漁場に着くと、海の上では全て一人の作業となる。リモコンで船を操作しながら、漁の作業すべてを独力でこなす。

例えばマアナゴをとるため、50個の仕掛け4セットを全て引き上げ、再び仕掛け直すまでの6時間を要する。
その間彼女は、あめを含むのみで、一切休まない。
「沖で何があるかわからないから、休んでいるうちに天気がわるくなったり、風が吹き出したら、帰れなくなるかもしれない」
海の上ではずっと神経を研ぎ澄ませている。そのため食べながら作業できるあめが、彼女にとってベストな食事となっている。

■一生続けていくために

「海の上では粘らない」も信条だ。
漁場に着いて1時間もしないうちに、作業を切り上げ港へ引き返すことがある。
「風強くなって、イヤな感じするから」というのだが、少しでも異変を感ずると、粘らないで何か起きる前に帰るよう心掛けている。

「困ったことがあったらシゲさんに聞く」も、重要なやり方。
まだ新米の漁師ゆえ、近所に住む72歳の漁師・シゲさんを教師と仰いで、いろいろ教えてもらっている。
最善のナレッジ・マネージメントだ。

「ドンコが獲れたら近所の人に配る」も、地域に溶け込む術の一つ。
ミズダコを狙う水深100mの仕掛けでは、一緒にドンコが獲れることがある。
ハゼの仲間で地域ではよく食べられる魚だが、売るほどの数が獲れないので、地元での消費にまわる。

彼女はこれを、ご近所に配っている。
市場に出荷する魚は、食べる人の顔がわからない。漁の喜びを実感するためには、喜ぶ顔をじかに見ることにしている。
地域で暮らす知恵と言えよう。

■浜で一番稼ぐ漁師になる!

漁師を続けるため、「休日は彼氏と釣りを楽しむ」と「海で落ち込んだら山に行く」というルールもある。
前者は彼氏のマサ(27歳)とのデート。船を出してもらって、二人で釣りをする。休みの日まで釣りと一瞬思うが、実はこれが一番リラックスできるという。
「仕事で一人船に乗ると余裕ない。誰かの船なら、純粋に海を楽しめる」
別の視点で海と向き合っていると言えよう。

後者は、漁が思うようにいかない時に山へ行く。
生まれ育ったのが山なので、安心できる場だという。また海ばっかりの日々なので、山は気分転換になるという。バランスを保つコツのようだ。

そして一番重視しているのが、「浜で一番稼ぐ漁師になる」。
そのため、海の状態さえ良ければ、休まず何日でも働き続けることにしている。
台風が接近すると、1週間以上船を出せないこともある。稼げるうちに稼いでおく決まりだ。

では公務員という安定を捨てて、危険できつい漁師になぜなったのか。
「養殖施設も毎年減っている。船降りる人も増えている。魚をたくさん獲って、一人前の漁師として成功できれば、若い人も漁師という職業に少しは関心をもってくれる」

震災で壊滅的な被害を受けた綾里漁港。
住民が一体となって復興に取り組んだ一方、漁業を諦め、街を去った人も少なくない。それでも再生しようという姿をみて、「ずっとここを見ていきたいと思った」高橋。
稼ぐことで浜に活気をもたらし、漁師が稼げる仕事であることを証明することで、地域と漁業のこれからを応援したいという。

人生の充実と理想の実現。
そのためには、従来とは異なる仕事の仕方や選択があると、高橋の生き方を見ていると気付かされる。仕事・生活・自分を変えたいと思っている女性には、必見の選択肢と言えよう。

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所