全英優勝後パットで手が震える~『情熱大陸』が迫る"笑顔"以外の渋野日向子~

2019/12/13 10:50

「女子力をあげる」
「料理を始める」
「ガニ股をなおす」
弱冠二十歳の女の子が立てた目標としては耳を疑う項目もあるが、1年たって渋野日向子は「一個もできなかった」と反省する。

『情熱大陸』は、そんな彼女の激動の1年を追った。

サムネイル
『情熱大陸』プロゴルファー・渋野日向子


不貞腐れた渋野もかわいい!>>

■スマイルシンデレラ

プロテスト合格1年目で、「AIG全英女子オープン」に優勝してしまった渋野日向子。
1977年「全米女子プロゴルフ選手権」を制した樋口久子以来42年ぶり、日本人2人目の快挙だった。しかも弱冠二十歳・プロ1年目という過去に例を見ない偉業である。

さらにプレー中に笑顔を見せ、もぐもぐタイムが印象的で、ファンとも良く交流することから、海外メディアは彼女を"スマイルシンデレラ"と命名した。
その"スマイル"は、母が「笑顔でいなさい。笑顔は人を幸せにするから......」と説いたことから始まる。
そんな渋野は、デビュー1年目から、女子ゴルフ界の中心を占めるようになった。

彼女の人気と強さは、いつでもピンを狙う攻めのショットにある。
さらに強気のパッティングがギャラリーを沸かせた。LPGA(日本女子プロゴルフ協会)ツアーでの平均パット数は、全選手の中で2位。平均バーディー数では1位と、見る者をワクワクさせるゴルフなのである。

今年のウーマンオブザイヤーにも選ばれた。
実力と笑顔とマメなファンサービスのたまものと言えよう。

■優勝後の不調

そこまでは順風満帆だった。
ところが、「全英オープン」優勝後に、"スマイル"という言葉が次第に重荷になっていった。その辺りの事情を、本人はこう説明する。

「笑顔が少なくなったと言われると、少なくなったかもしれないですけど、私も人間だから、毎日ずっと笑顔でいられるわけではないんですよ」

今年10月のトーナメント。
2019年の国内賞金ランキングが決定するまで、残すところ6戦。渋野はトップと約600万円差で2位につけていた。
ギャラリーは渋野を追い、熱い視線を注いでいた。ところが彼女は絶不調。得意のパットも入らなかった。

「パターで震える時がある、最近。これ入らなかったらどうしようとか」
「全英優勝してから......。自分でプレッシャーをかけているのかもしれないですね」

その後も不調が続いた。
スマイルシンデレラは、いつの間にか聞きたくない言葉に変わってしまっていた。

■スマイル復活

11月、国内賞金ランキング決定まで残り4試合を切った。
ところがトップとの差は1500万円に開いていた。しかも不調は深刻で、全てのショット・パットがうまくいかなかった。笑顔は完全に消えた。そしてついに予選落ちという屈辱的な成績をとってしまった。
「今年はこのまま沈んでいく」おおかたはそう読んでいた。

ところが11月下旬。
トップとの差が2400万円に開いていたが、予選落ちから一転、いきなり優勝した。
どん底から一挙にトップへと復活した。詳細を渋野は言わないが、実は父の言葉が復活の鍵を握っていたようだ。

「3分間しか話をしていないのですが、父が思っていたことが、すごく伝わるような話をしました」
「だいぶ刺さったと思います」

そしてツアー最終戦。
本来の渋野のゴルフをしていた。しかも苦手だったアプローチでも、見せ場を作るほど復活ぶりを印象付けていた。

そして最終ホール。
この時点で賞金女王には届かないことが判明していたが、"笑顔"が戻っていた。そしてラストはバーディーと"笑顔満開"で締めくくった。

「スカ―ってしています」
「最後のあのバーディーは、本当にスカッとしました。残り1ホールで、1年間の感謝の気持ちを込めた3打を打てたかな」
「結局どうおもわれようが、自分の人生だからと思って切り替えて、ありのままの自分でやれば良いんだなと思って、そこから何とかって感じですね」

20歳から21歳までの1年間、渋野は天国と地獄、そしてドン底からの復活を経験した。
そこに密着したカメラは、貴重な言動を見逃さなかった。このドキュメンタリーは、そんな若武者の奮闘の記録を、映像が伴うがゆえに説得力と感動をもって、われわれに伝えている。
渋野の可能性とともに、テレビのポテンシャルも示した秀作ドキュメンタリーと言えよう。

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文・鈴木祐司 次世代メディア研究所