【インタビュー】世界初のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』が始動......日本はいまや"ダンス大国"だ

2020/8/24 11:27

日本のストリートダンス競技人口は約600万人。こちらはサッカー、野球に次ぐ規模で、もはや「ダンスは日本の国民的スポーツ」と言っても過言ではなさそうだ。そんな"ダンス大国"で、世界初の試み『D.LEAGUE』が始まろうとしている。『D.LEAGUE』はダンス業界にどのような変化をもたらすのか――? 株式会社Dリーグ代表取締役CEOを務める平野岳史氏と、代表取締役COOを務める神田勘太朗氏に話をうかがった。

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株式会社Dリーグ・代表取締役CEO平野氏(右)と代表取締役COO神田氏(左)


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■"踊る社長"ふたりの奇跡的な出会い

――どのように『D.LEAGUE』のアイデアが生まれたのでしょうか?

平野:「ダンスをメジャーにするために、プロリーグを立ち上げたい」と最初に提案したのは、神田のほうですね。神田のアイデアを受けて、自分も経済界の人間として役立つことがあるならばと参画した形です。

――神田さんは、世界最大級のダンスバトルイベント『DANCE ALIVE』のプロデューサーを務めるなど、もともと実業家兼ダンサーとして知られる存在ですね。一方の平野さんは、人材紹介・派遣会社フルキャストの設立者として有名です。エンタメ事業ずばりではないイメージですが、いちビジネスパーソンとして、ダンスというジャンルに可能性を感じたということでしょうか?

神田:実は『D.LEAGUE』にも参画してくださっているLDH創業者のEXILE HIROさん(以下HIRO)に「踊る社長がいるのは知ってる?」と紹介されたのが、平野さんなんですよ。

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神田「平野さんは初めてお会いしたときも踊っていました」


――平野さんも踊るんですね!

平野:はい、踊っています(笑)。今から8年前、娘と共通の話題を作ろうと五十の手習いでダンスを始めて、すっかり娘よりハマってしまいました。娘はダンサーになることを夢見ていたのですが、ダンスでお金を稼ぐとなると活躍の場が限られてしまうんですよね。歌手のバックダンサーになるか、振り付け師になるか、ダンスの指導者になるか、現状はほとんど3択なんです。HIROさんはダンサーを"パフォーマー"と位置づけることで、ダンサーをステージ上の主役にすることを実現させました。『D.LEAGUE』では、その在り方をさらに推し進め、ダンサーにさらなる選択の幅を与えたい。ダンサーにあこがれる中学生、高校生たちにとって夢のある世界を作りたいんです。

神田:平野さんは初めてお会いしたときも踊っていましたからね(笑)。ダンスが好きなお父さんと、ずっとダンスをやってきた元少年が手を組んで作り上げるのが『D.LEAGUE』と言ってもいいかもしれませんね。

■競技人口と市場規模から見て、ダンスリーグが誕生するのは当然

――『D.LEAGUE』とは、日本発世界初のダンスのプロリーグだそうですね。既存のダンスコンテストとは、どのように異なるのでしょうか?

神田:名だたる企業が公式ダンスチームを所有するのが、これまでのダンスコンテストと圧倒的に異なる点です。大手企業が有するダンスチームが、企業の看板を背負って勝負に挑む。『D.LEAGUE』は、野球やサッカーなどのスポーツで行われているプロリーグをダンスの世界で展開するものなんです。

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平野「日本はいまやサッカーで言うブラジルのようなダンス大国なんですよ」


――なぜ今、『D.LEAGUE』というものを始動させるに至ったのでしょうか?

平野:2011年からストリートダンスが学校教育で必修化され、現在の国内のストリートダンス競技人口は約600万人という調査結果が出ています。サッカーの競技人口が700万人、野球が600万人、バスケットボールが570万人というデータと並べると、これは驚くべき規模ですよね。日本はいまやサッカーで言うブラジルのようなダンス大国なんですよ。さらにブレイクダンスが2024年に行われるパリ五輪の正式種目に承認される可能性もあり、今後もダンスの競技人口は増えていくことでしょう。

神田:僕たちとしては、「もう野球のリーグはある、サッカーのリーグもある、じゃあダンスしかないよね」という感覚なんですよね。競技人口と市場規模から見て、ダンスをテーマにするのは当然のことなんです。

――D.LEAGUEを作る上で参考にしたものはなんでしょうか?

神田:サッカー、野球、卓球、バスケ、マージャンなど、あらゆるプロリーグについて勉強しました。一番参考にしたのは、世界でもっとも人気のあるスポーツとされているサッカーです。ただのボールを蹴る遊びから、いかにリーグ誕生に至ったのか? そういった歴史的なところから、FIFA(国際サッカー連盟)の規約や組織体制、J3と町おこしの関係に至るまで、とにかくプロリーグに関係する資料を読み漁りました。また、日本では、毎日4万人以上を動員するプロ野球の強さだってケタ違いです。試合中継を見ながら家族団らんというレベルまで人気が定着したのはなぜなのか? そういった理由を分析しつつ、逆に「こうすればよかった」という反省点も関係者の方々にインタビューして、あらゆるプロリーグの良いとこ取りで『D.LEAGUE』の体制作りに生かしています。

■世界初の"ダンスのプロリーグ"はなぜ日本から生まれた?

――ダンスの競技人口がこれだけ多いなら、むしろダンスリーグが今まで存在しなかったことを意外に感じてきます。ダンスのプロリーグ設立とは、それだけハードルが高いことなのでしょうか? なぜ『D.LEAGUE』は世界初の試みとして始動することができたのでしょうか?

神田:その理由は単純で、ダンサーはリーグ設立のために奔走するよりも自分が踊っていたい生き物だからです(笑)。

平野:ダンサーは職人気質の方が多いですからね。

神田:もともと僕は、「ダンサーとして目立つには、自分で大きな大会を作って、そこで踊ればいい」という発想からビジネスを始めたのですが、自分でも稀(まれ)な例だとは思います。ビジネスとダンスの両方に関心がある人材が少ないというのが、これまでダンスのプロリーグというものが存在しなかった理由ではないでしょうか。

――ダンスチームのオーナー企業などは、なぜ『D.LEAGUE』というプロジェクトに参画したのでしょうか?

神田:ダンスに直接関係しない企業も多いですからね。そこは平野さんの人徳も大きいと思いますよ。あとは企業としてダンスチームを所有することで、若者にアプローチしやすくなることを魅力と感じた企業も多かったのではないでしょうか。自分たちでインフルエンサーを抱えるようなものですからね。

平野:自分が手掛ける人材派遣サービスでも、10代~20代前半の登録者は、3、4人にひとりが趣味・特技欄に「ダンス」と書いている印象です。今の若者にとってダンスは大きなテーマ、もはや日常と地続きの存在なのでしょうね。

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神田「いまやダンスを目にしない日はありません。」


神田:テレビでもTikTokでもInstagramでもアニメでも、いまやダンスを目にしない日はありません。野球やサッカー、F1など歴史が長いジャンルだと、昔は自分もプレイヤーで、息子、孫と世代が移り変わる中で、今度は若者を支えるパトロン的な立場につく人は多いじゃないですか。実際、僕がダンス業界でビジネスをしていく中で「子どもがダンサーなんです」ということで協力していただく機会が多くありました。ダンス好きな若者たちが成長して、今度はダンスというジャンルのパトロンになってくれる可能性は十分ありますよね。「自分も昔はダンサーにあこがれていた」という人が増えていけば、ダンス市場はさらに大きくなっていくと思いますし、そういう方々と『D.LEAGUE』を作っていきたいと思っています。

■『D.LEAGUE』はダンサーに新たな選択肢を提示する

――『D.LEAGUE』によって、ダンス業界はどのように変化すると考えていますか?

平野:ダンサーがアスリートに近い存在になると思います。「企業のサポートを受けながら、大会優勝を目指して日々鍛錬する」というのが、プロのダンサーの在り方として、ひとつ加わるのかな。

神田:アスリートのようなダンサーが増える一方で、音楽とともにダンスをライフスタイルに溶け込ませるようなカルチャー要素の強いダンサーも増えると思います。ダンスというジャンルの中に、フィギュアスケートのような"アートスポーツ"の領域が増えることは、その領域以外のダンサーを否定することにはつながりません。大会で勝利することを目指すダンサーもいれば、芸能界を目指すダンサーもいるし、もっと違うスタイルを選ぶダンサーもいる。その多様さによってダンスシーン全体が盛りあがっていけば僕もうれしいです。

――『D.LEAGUE』という場所に全てのプロダンサーを集約するわけではないんですね。

神田:Dリーガーだけがプロのダンサーなわけではなく、振付師だってインストラクターだってダンスのプロです。『D.LEAGUE』というプラットフォームが存在する世界で、どんな道を選ぶかはダンサー次第。僕たちはあくまで選択肢のひとつを提示するだけです。

――そう聞いて安心するダンサーも多そうです。

神田:企業がダンスチームを所有するなどの体制は新しいものですが、そのぶんダンスそのものは歪(ゆが)めずにお出しするつもりです。競技化することによって、「あのダンサーがあのチームに所属する」とか「移籍金はいくらだ」のようなスポーツの世界らしい話題は生まれつつ、芸術だからこその"あいまいな美しさ"は残します。

平野:"あいまいさ"はある程度残した上で、ダンスを競技化する、ひいてはメジャースポーツ化するために、わかりやすい審査基準を作ることも注力しました。これまでのダンスコンテストは1対1のダンスバトル形式が多かったのですが、これってダンスをよく知らない人からすると、わかりづらい部分もあるんですよね。「どっちのテクニックが優れているか? グルーヴ感があるか?」と言われても、松井とイチローを比較するようなもので(笑)、「どっちもすごい」と困ってしまいます。

――ダンスに詳しくない人でも観戦して楽しめる競技にするために、どんな工夫をしているのでしょうか?

平野:8人チーム制を採用したことですね。日本人は複数の踊り手によるダンスが好きですし、「振り付けがそろっているか?」は見てわかりやすい評価基準です。また、プロのダンサーや有名人に加えて、オーディエンスによる審査も導入します。お笑いコンテストも、会場票を入れることで、プロ目線だけではないトータルな判断を下していますし、プロ以外も感情移入できるものになっていますよね。ダンスをさらにメジャーにするためには、ダンサー以外からの評価も必要だと判断しました。

■『D.LEAGUE』の真価が問われるのは数十年後

――ダンスと一口に言っても、ロックやジャズなどジャンルはさまざまですよね。『D.LEAGUE』はダンスのジャンルを網羅するものなんでしょうか?

神田:それはオーナーがどんなチームを持ちたいかにもよりますね。今回はジャンルがたまたまバラバラになったのですが、そのときのトレンドや戦略によって、ヒップホップが強くなる年などもあると思います。1戦目は様子見で、3戦目あたりから審査員の好みや他のチームの動向なども見えてきて、また作戦を変えてみたり......。そういう面白さも広がっていくはずです。

平野:戦略によってダンスのジャンルを変えることもあれば、逆に「クランプといえば、あのチーム」というのも出てくると思います。なかには、「ジャズとブレイキンの要素を融合させよう」というチームも出てくるかも。どんなダンスが生まれるか、自分も今から楽しみにしています。

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神田「僕らが死んだ後も『D.LEAGUE』というものが残るようにしたい。」


――『D.LEAGUE』が成功する上で、要となる部分はどこだと考えていますか?

平野:『D.LEAGUE』の選手から、ヒーロー、ヒロインが誕生することですね。お茶の間の誰もが知っているスターが生まれることが、次の展開に大きく関わってくることでしょう。

――『D.LEAGUE』の短期的な目標、長期的な目標を教えてください。

神田:短期的なところだと、まずは事業として黒字化させることですね。長期的なところで言うと、僕らが死んだ後も『D.LEAGUE』というものが残るようにしたい。スタート時に盛り上がるのは当然として、『D.LEAGUE』の真価が問われるのは数十年後だと思います。もはや『D.LEAGUE』というものが当たり前のものになり、全世界でリーグが開催され、各国の代表選手によってアジアチャンピオンズリーグやヨーロッパチャンピオンズリーグが行われる規模のものになり、Dリーガーが子どもたちの夢になってほしい。もしかすると、地球を飛び出して、宇宙リーグもできるかもしれない(笑)。冗談に聞こえるかもしれませんが、それくらい未来まで『D.LEAGUE』というものが広がっていってほしいんです。

平野:そのためにもまずは第1回を成功させ、多くの方々に『D.LEAGUE』を認知していただかなければなりません。1回、2回と成功させて満足するのではなく、『D.LEAGUE』をいつまでも永続してメジャーな存在にまで成長させていくことこそが目標です。

神田:『D.LEAGUE』は歴史に名を残すことができる事業だと思っています。コロナ禍の開催で試行錯誤する部分は多くありますが、HIROさんもよく「ピンチはチャンスに!」と言っています。オリンピックの開催が危ぶまれる中、『D.LEAGUE』がみなさんに希望を与えられるものとなるよう尽力します。

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株式会社Dリーグ・代表取締役CEO平野氏(右)と代表取締役COO神田氏(左)


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■平野岳史(ひらの・たけひと)
1961年8月25日生まれ、神奈川県出身。株式会社Dリーグ代表取締役CEO、株式会社フルキャストホールディングス取締役会長。金融業界に就職した後、「会社員を3年間で辞める」という宣言通り退職。87年に家庭教師派遣サービスを開始、92年10月に株式会社フルキャストを設立。2001年6月にJASDAQ上場、2004年9月には東証一部上場を果たした。

■神田勘太朗(かんだ・かんたろう)
1979年12月13日生まれ、長崎県出身。株式会社Dリーグ代表取締役COO / 株式会社アノマリー代表取締役CEO / 株式会社expg取締役兼任。世界最大級のダンスバトルイベント『DANCE ALIVE』のプロデューサーとして知られる。著書に『誰も君のことなんて気にしていない。』(きずな出版)がある。

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(取材・文/原田イチボ@HEW